【天皇賞・秋】アーモンドアイ8冠秘話 名手ルメールが涙のワケ

2020年11月02日 11時00分

芝GⅠ8冠の大偉業を成し遂げたアーモンドアイ。馬上のルメールは感激ひとしおだった

 3週連続の歴史的偉業――。1日、東京競馬場で行われた第162回天皇賞・秋(芝2000メートル)は、断然の主役アーモンドアイ(牝5・国枝)が2着フィエールマンに半馬身差で勝利。デアリングタクト、コントレイルという無敗の3冠馬が誕生した前2週に続いて、シンボリルドルフ、ディープインパクトを超える史上初=芝GⅠ8勝のビッグレコードを打ち立てた。名手ルメールをして「すごいプレッシャーでした」と言わしめた一戦は、永久に色あせることのない歴史的なレースとなった。

 検量室に引き揚げてきた時から、すでに鞍上・ルメールの瞳は濡れていた。JRAで過去30を超えるGⅠ勝ちを収めてきた名手が、気持ちの高ぶりを抑え切れない。アーモンドアイがこじ開けた歴史の重みが、その姿に凝縮されていた。

「今日、日本一になりました。20年後もみんなアーモンドアイの8勝目を覚えていると思います。今日は特別な日、特別なストーリーです」

 同馬の出現まで、芝のGⅠ(国内外)最多勝はシンボリルドルフ、ディープインパクトなど6頭が持っていた7勝。今年のヴィクトリアマイルでこれらの歴史的名馬に並んだものの、新記録に王手をかけた前走・安田記念は2着に終わっていた。ゆえに「毎回乗る時はプレッシャーがすごいです。本当にGⅠ8勝目を取りたかったから、プレッシャーはありました」(ルメール)。

 もはや、その極限状況に打ち勝った人馬をたたえる以外、今回ばかりは他に何ができようか。

 もっとも多くのファンは互角の発馬を決めた時点で、勝利を確信したに違いない。「今日はスタート前、とてもリラックスしていました。ゲートの中も静かでした」の言葉通り、好発を決めて道中は外めの3番手。5ハロン通過60秒5の淡々とした流れをすんなり折り合えば、完全なる勝ちパターンに映ったろう。残り300メートルまで手綱は持ったまま。もはやあっさりとも思われたのだが…。

「早めに外に出したから、ロングスパートが使えないといけないレースになりました。最後は少し疲れてしまった。大外から馬が来たので心配しました」

 ゴールで2着フィエールマンとの半馬身は、GⅠ全8勝における最小着差。1・4倍の単オッズに反する辛勝も、裏を返せば歴史の重みと受け取れる。この勝利で自身の天皇賞・最多連勝記録を「5」に伸ばしたルメールだが、「(記録は)知らなかった」の言葉こそが、この一戦に懸けた集中力を物語る。管理する国枝調教師も次の言葉で人馬をねぎらった。

「かつてホースオブライフ(人生の馬)と言ってくれたし、ルメさんも相当な思いがあったと思います。やっぱり簡単にはいかない。ドバイ(ターフ)の時もそうだったが、スムーズすぎると甘くなる面もあるからね。ただ、これだけの馬ですから。何らかのご褒美が欲しかった」

 こうなれば、もはや周囲の関心は記録更新がかかる次走だが、「状態を見てオーナーと相談して」とトレーナーは「未定」を強調した。登録した12月13日の香港国際競走(香港カップ、香港マイル)は騎手やスタッフが入国から2週間の待機期間が求められるため、実現性は薄い。アーモンドアイを所有するシルクレーシングの規定(牝馬は6歳3月までに引退)も考慮すれば、おそらく11・29ジャパンCか12・27有馬記念がラストランとなる公算が大。

「いつも新しい馬がいます。みんなアーモンドアイに勝ちたいから大きなプレッシャーです」とはルメールだが…。どちらを選択するにせよ、最後にもう一度ライバル勢を蹴散らす最強馬の姿を、すべてのファンが期待している。