【天皇賞・秋】アーモンドアイ 8冠へ生死をかけた“おっかない”ほどの闘争心

2020年10月27日 11時30分

史上初の芝8冠へ向け、早くも研ぎ澄まされた表情を見せるアーモンドアイ

「史上初ラッシュ」となっている日本競馬界。無敗の牝馬3冠(秋華賞=デアリングタクト)、無敗の父子3冠(菊花賞=ディープインパクト&コントレイル)に続き、第162回天皇賞・秋(11月1日=東京芝2000メートル)では、アーモンドアイ(牝5・国枝)が芝GⅠ8勝目を挙げ、新たな歴史の扉を開けることが期待されている。果たしてデビューから見守り続けてきた「ベテラン番記者」山村隆司のジャッジは!? 非常識でおっかない女帝への忠誠心に、一切の揺らぎは見られない――。 

「年齢的なズブさなのか、いつもより10キロくらい立派な体がなかなか絞れてこない。それで我々も少し重いかなと思っていたんだけど…。ルメさんは“全然大丈夫”って。“とにかくすごくいい”と言うもんで、俺も幸せな気分になっちゃったよ(笑い)」

 アーモンドアイがルメールを背に美浦南ウッドで1週前追い切りを終えた直後の国枝調教師の言葉である。JRA・GⅠ通算17勝の名伯楽の見立てさえ軽く飛び越えていく。どこまでも常識やセオリーが通用しない馬――。それがアーモンドアイなのだろう。

 振り返れば、そんな“非常識”は過去に何度もあった。当時の史上最長ローテ(中89日)で勝利した桜花賞。「時計が壊れているのではないかと思った」(国枝師)ジャパンC2分20秒6走破。そして最たる出来事はちょうど1年前、「何かおっかない」との言葉を指揮官に吐かせた天皇賞・秋ではなかったか。

 スタートから間もなくして内ラチにぶつけられる不利がありながらも、ゴール手前では後続を振り返る余裕を見せての3馬身差。レコードに0秒1差のV時計1分56秒2で、並み居るGⅠ馬9頭を完膚なきまでに圧倒してみせた。そんな異次元の走りの源とは一体、何なのか…。

「アスリートとして考えた場合、人間なら練習と本番で極端な違いは生じない。ところがサラブレッドは調教と競馬がまるで別物なんて場合がザラにある。不思議だと思わないか?」

 かつて、こんな疑問をトレーナーが投げかけてきたことがある。人間とサラブレッドのパフォーマンスに歴然たる違いを生み出すもの――。それは本能に根ざす闘争心なのかもしれない。スポーツが名誉をかける舞台なら、DNAの存続をかける過酷な舞台こそが競馬。そんなサバイバルにあって、「おっかない」と恐怖感を覚えるほど闘争心を燃やす馬がいるとするなら…強さの根源もおのずと見えてこよう。

 史上初となる芝GⅠ8勝目がかかる天皇賞・秋を前にして、彼女の闘争心はいかほどか。出遅れて2着に終わった前走の安田記念の敗因を踏まえ、主戦・ルメールは次のように感触を伝える。

「とくにGⅠではスタートが大事。短い距離ならなおさらです。でも前走はゲート入りでエキサイトして、中でも我慢できなかった。初めての中2週の出走で、たぶんいつもと違ってました。でも今回はリフレッシュしたことで、いつも通りのアーモンドアイです。(1週前追い切りの)止め際も疲れていなかったし、呼吸も良かった」

 GⅠで敗れた過去3戦(今年の安田記念のほかに、昨年の安田記念3着、有馬記念9着)はいずれも中8週以内での出走。尋常ならざる闘争心の放出には、やはり相応の充電期間が必要なのか…。いずれにせよ、昨秋の天皇賞の1週前には「少し疲れて息が強かった」と不安を漏らした鞍上が、今回は好対照の弁を口にしたのだ。臨戦過程に1ミリの不安もあるまい。

「10年に1頭? いや、彼女は100年に1頭の馬かもしれない」

 国枝調教師がこうつぶやいたのはJCをレコードで制した3歳秋だった。芝GⅠ8勝の歴史的偉業がかかる今回はむろん、その予言の正当性を示す絶好機だ。

「とても届かない位置から飛んできた秋華賞、GⅠ馬9頭を相手にしのぎを削るシーンさえなかった昨年を思えば、2000メートルこそベストだろう」との指揮官の言葉から測れば…。“おっかない”ほどの闘争心で、“非常識”な強さを見せ、新たなアーモンドアイ伝説が築かれる可能性は限りなく高い。