【スプリンターズS】クリノガウディー 厩舎の熱い思いで“不運”に打ち勝つ!

2020年09月30日 17時45分

“幻のGⅠ馬”クリノガウディー。あとは運さえ向いてくれば…

【スプリンターズS(日曜=10月4日、中山芝外1200メートル)栗東トレセン発秘話】クリノガウディーを見ていると、あの馬のことを思い出す――。そう言って、かつての名馬を教えてくれた人がいます。藤沢則厩舎の「攻め専」田島助手です。

 攻め専とは、担当馬を持たず、主に馬の調教を専門に行い、その仕事内容から、もともと騎手をしていた人も多い。長年の競馬ファンなら、以上の情報だけでピンときたのでは。そう、田島助手とは田島裕和元騎手その人なのです。

 冒頭で彼が語った“あの馬”とは、20年以上前に平成のターフを駆け抜けた快速馬スギノハヤカゼ。競馬歴2年ちょいの私はもちろん、その生の姿を知りません。ですが「サラブレッドには持って生まれた能力のほかに、“運”ってものがあると思う。その点でハヤカゼは運を持っていない馬だったんだ。ライバルがあのタイキシャトル。雨馬場が苦手だったのに、肝心な時には雨が降る。距離だって、1400メートルのGⅠがあれば…と何度思ったことか」と悔しそうに笑う田島助手と話していると、まるでつい最近までそこにスギノハヤカゼがいたかのような感覚になってしまいます。

 彼とクリノガウディーの共通点とはスプリンター? いやいや、“運がない”ところだという。

「ガウディーはデビュー前からいつかスプリントで走らせてみたいと思っていた馬なんだ。それがかなったのが今年の高松宮記念だった」

 結果はご存じの通り、1位入線→4着降着。翌週のトレセンでは、厩舎の誰もが悔しさをかみしめる表情をしていて、なかなか声をかけられませんでした。

 同じスプリンターでも2頭の性格は全く違っているらしく、「ハヤカゼは真面目でいつも必死に走ってた。馬と馬の間を自分から割っていこうとする根性もあったよ。あんなゴトゴトの歩様で走れたのも、その性格が大きかったと思うんだ。対してガウディーはズルいタイプなんだよね」。

“ズルい”クリノガウディーが初めて目一杯走ったのが高松宮記念。直線で内に切れ込んでしまったのは癖でもなんでもなく、「苦しくなるまで走った。それでヨレてしまった」のだという。

「あんな必死のガウディーを見たことがなかった。普段はキャンターくらいの感覚で坂路4ハロン52秒台を楽に出してくる馬なんだよ。新聞ではいつも好時計とか騒がれていたけど、ガウディーにとってはいつもジョギングみたいなもんやった」

 クリノガウディーの能力の高さを改めて実感させられます。そんな実力馬がいまだ1勝にとどまっているやるせなさは誰よりも一番、厩舎が感じていることなのです。

「千載一遇のチャンスを逃してしまった。その後は正直、歯車が狂ってしまった感じがする。騎手時代から何十年もこの世界で馬を見てきて、何かがかみ合わず能力を出し切れないまま引退していった馬たちをたくさん見てきた。ガウディーは…丸田(担当助手)が本当に真面目なヤツで、いつも真摯に向き合っているのを知ってるから、俺も攻め馬をしながら、どうにかこの馬でGⅠをと思っているんだけどね」

 高松宮記念の後、悔しさよりも先に「他の馬に迷惑をかけてしまいましたから。申し訳ない気持ちが一番」と語っていた実直な丸田助手。クリノガウディーの成長をずっと二人三脚でサポートしてきただけに、田島助手の丸田助手に対する思いも相当、強いものがあるのでしょう。そして「GⅠを勝たせてあげられなかった」スギノハヤカゼの姿も重ねているのかも…。

 運がない。そう言ってしまえば手も足も出ないように思えるが、それにも打ち勝つ厩舎の熱い思いがあると信じたい。さらにはクリノガウディーの強さを信じているファンの思いも加われば…。不運な高松宮記念とは違った結末が待っているのではないでしょうか。