【天皇賞・春】フィエールマンとキセキを獣医師免許を持つ中村均元調教師が徹底分析

2020年05月01日 21時03分

新時代のステイヤーと言えそうなキセキ

【天皇賞・春(日曜=5月3日、京都芝外3200メートル)“智将”中村均元調教師の獣医学的馬体評定】「競馬戦国絵巻」でおなじみの本紙専属競馬評論家・中村均は、獣医師免許を持つインテリ調教師として、かつてその名をとどろかせた。競走馬を生物学的に切り込める男ならではの馬体診断は一読の価値あり。果たして智将が理想形とする“ハイブリッドステイヤー”とはいかなるものなのか!?

 天皇賞・春に出走する馬は、当然のことながらステイヤーであって、スプリンターとは違う独特の体形をしています。長距離馬は一般的にストライド走法が多いと言われてきましたが、近年はそうとも言えません。令和の時代におけるステイヤーの理想形は、ストライド走法に加えて、スプリンターに多いピッチ走法も兼備し、その2つを場面によって使い分ける馬ではないでしょうか。

 アスリートで言えば、ウサイン・ボルトのように背が高く、脚の長い馬が、大きなストライドで走り、勝負どころで早いピッチに替えて瞬発力を発揮。これができる馬こそがGIを制する――。ではここからはより具体的に。今年の出走馬の馬体の特徴とそこから派生する走り方について解説したいと思います。

 ステイヤーの体形としては全体的に完璧なのがフィエールマンです。顔は小さく、キリッとした目をしていて、首は胴との付け根が太い。肩の傾斜が滑らか(50度)、かつつなぎの傾斜も緩やかなため、前肢が前に出やすく、着地の衝撃が緩和されます。

 注目すべきは胸囲が大きいところ。つまり、胸腔が広いため、このタイプは心臓と肺が大きく、心肺機能も高いことが多いわけです。

 体のつくりは長躯短背(背中が短く腹が長い)で柔らかい背筋を持っているので、前後の肢がよく伸びて、ストライドの大きいフットワークをします。後躯の筋肉量はステイヤーらしく、やや少なめで臀部はそれほど大きくない。しかし、腸骨・大腿骨に付着する大腿二頭筋はよく発達しており、これが後肢の強い蹴りを生み出します。

 飛節は真っすぐ伸びており、脛骨、足根骨、中足骨の組成が直線に近く、後肢が前に深く入り、後ろによく伸びます。後肢のつなぎも傾斜は滑らかで弾力があり、なおかつ臀部の半腱半膜様筋(臀部の突端にある筋肉)が発達。この部分からも強い蹴りを持っていることがうかがえます。

 対してストライドとピッチの両走法を使い分けられるタイプがキセキです。今年の出走馬の中で一番の巨体。ステイヤーとしては比較的大きな身体を持っています。近年は大型馬のステイヤーも増えており、そういう意味では新時代のステイヤーと言ってもいいかもしれません。

 顔からお尻にかけてすべてのパーツが大きく、首も太くて肩の傾斜は51度ぐらい。滑らかで柔らかく、背も短くて、伸縮性があり、立派な臀部も持っています。ただ、幅はさすがに厚くはないですね。

 つなぎは程よい長さで、このおかげで着地時の体重が支えられ、その衝撃が十分に緩和されます。発達した肩の上腕二頭筋と後躯の大腿三頭筋が力強い走りを生み出しているのでしょう。

 大型馬らしいフットワークで、全身の筋肉を使って前肢がよく伸び、大きなストライドとダイナミックな走法で、ピッチも必要に応じて速くなります。競走馬として理想的な、本当に見事な走りを可能にしています。

 今回は2頭を例に取って、ステイヤーの理想形について解説させていただきました。もちろん、理想の体形、走法だからレースも勝てるといったものではありませんが、各馬の特徴をつかむための参考に少しでもなれば…。今後も路線の違うGIで、また登場できればと思っています。