【阪急杯・後記】浜中ベストアクター 人馬が見せたドラマの舞台裏

2020年03月02日 21時31分

戦列復帰した浜中はベストアクターの能力をいきなりフルに引き出した

 1日、阪神競馬場で行われたGIII阪急杯(芝内1400メートル)は、6番人気のベストアクター(セン6・鹿戸)が重賞初挑戦でいきなりタイトルを奪取。鞍上の浜中は昨年11月の大ケガから復帰した週に重賞を勝利した。人馬が見せたドラマの舞台裏を、当事者徹底取材から迫った。

「本当にうれしいです。ケガをして休むことになって申し訳ない気持ちでいっぱいでしたから。いい競馬ができたことで支えてくれたみんなに少しでも安心してもらえたのなら」

 昨年11月24日の落馬事故以来、約3か月ぶりに戦列復帰した浜中の笑顔がはじけた。

 昨年はロジャーバローズで令和初のダービーを制覇。近年は負傷することが多く、もがき苦しんできた次代のエース候補にようやく光明が差したところでの大事故。胸椎、肩甲骨、鎖骨、肋骨…。体中の多くの箇所を骨折する大ケガからの復帰には相当な苦労があったことは想像に難くない。

 しかし懸命にリハビリを続け、診断をはるか上回るスピードでのターフ復帰となった原動力は、ダービージョッキーの称号を手にしたことでの自負や責任感に違いない。

 京阪杯での落馬事故直後も自身の体より、急性心不全で3歳にして命を散らしたパートナーのファンタジストへの哀悼の思いを語った男。復帰週での重賞で初めてコンビを組んだベストアクターにも、馬の能力を引き出すことにだけ努めた自然体の騎乗が感じられた。

 開幕週では有利といえない外めの枠でも中団でじっくり機をうかがい、直線で馬場のいい内に馬が殺到すると、即座に外へ進路を切り替えて鮮やかに差し切ってみせた。

「理想的なポジションが取れて、直線もうまく進路を見つけることができました。反応も良かったので何とか届いてくれという気持ちでした」と浜中。

 ベストアクターの最大の長所である瞬発力を引き出す騎乗は称賛に値するもの。ブランクを感じさせない勝負勘は、デビュー間もなくから第一線で活躍してきた天賦の才のなせる業だ。もちろんそれに応えた同馬の充実ぶりも目覚ましい。6歳にして初のオープン挑戦、しかも重賞を勝つのだから、その秘めた素質は完全に開花した。

「数を続けて使えない馬でした。それをこれまで大事に使わせてもらったおかげで随分と体が成長しましたし、去勢してからは体調を維持しやすくなりました」と鹿戸調教師。続けて「今日はダイナアクトレス(祖母)の命日だったそうです。そういう血のつながりがあったのかもしれません」とエピソードを語ってくれた。

 今後は少し休養を取り、6・7安田記念を視野に入れたマイル路線がターゲットとなる。

 新型コロナウイルス禍に覆われた日本列島。その中で行われた前代未聞の無観客競馬は、新人騎手の勝利や引退調教師が花道を飾るなど、ドラマ性を帯びた結果も多かった。その極めつきが人馬ともに苦労の時期を乗り越えての重賞制覇なら、筋書きさえ読めないことこそが競馬の魅力でもある。そのストーリーが映像で観戦する多くの競馬ファンの胸にまで届いたのなら、それ以上に喜ばしいことはない。