【旭堂南鷹の競馬講談したい馬】最強のダート馬アスコットエイトの面影感じるインティのみやこS楽勝劇に期待

2019年11月01日 21時01分

フェブラリーSを制したインティ(右)

【旭堂南鷹の競馬講談したい馬】「最強のダート馬といえば?」

 そう問われれば、クロフネやゴールドアリュール、近年ならホッコータルマエと答えるファンが多いだろう。僕も異論はないが、どうしても幼少に見た馬というのは強烈な印象をいまだに残している。

 1983年の菊花賞。ミスターシービーがシンザン以来となる3冠に王手をかけていた。小学校3年生の僕はもちろん、その瞬間の訪れに胸を膨らませていた。だが、ゲートが開いた瞬間、その胸を張り裂かんばかりの不安に襲われた。

 レースは一頭の馬の大逃げで幕を開ける。アスコットエイト。ダートで他を寄せつけない圧倒的な速さで勝ち上がってきた馬だ。その鮮烈さゆえに、芝で未勝利ながら21頭立ての11番人気と結構な支持を集めていた。

 1周目のホームストレッチで後続を引き離して逃げるアスコットに対して、シービーは21頭のシンガリ。今なら冷静に見ることはできるが、当時はまだ子供だ。ましてやダートでの圧勝劇もテレビで見ていた。「アスコットが逃げ切るのか」。尋常ではない胸騒ぎがした。

 結果は言わずもがな、アスコットエイトは向正面で早々に脱落。シービーが20頭ゴボウ抜きの離れ業で偉業を達成し、アスコットはその歓喜から大きく遅れてゴールした。

 路線が確立した今の時代、アスコットエイトのような馬がクラシックに挑戦することは少ない。しかし、無謀と言われようとも挑戦する姿に人は勇気をもらう。だから、アスコットのあの逃亡劇は今なお僕の心に残っているのだ。

 ダートに戻ってからのアスコットエイトは大差勝ちを連発。特に、GIII中日新聞杯(ダート1700メートル)は重賞という格を考えれば歴史的大勝だ。ダート馬不遇の時代のため、GIタイトルはゼロ。それでも、僕にとって最強のダート馬の一頭として強く記憶に残っている。

 そのアスコットエイトの面影を感じるのがインティ。あれほどの着差ではなくても、影を踏ませぬ大楽勝を続け、一気にフェブラリーSを勝った。この秋はチャンピオンズCでJRA・ダートGI完全制覇に挑む。

「春とは心身ともに全く違う。地力がついてきた」と野中先生。59キロは酷量だが、あの体を見れば苦にするとも思えない。みやこSはインティらしい楽勝劇を期待したい。

【プロフィル】きょくどう・なんおう 講談師。マイケル・ジャクソンの自伝を読んで講談師の道を決意。演目は競馬、MJの他に「五代友厚」をシリーズ化。毎週日曜7時~ラジオ関西「南鷹の今昔なにわ物語」出演中。夢はグラミー賞朗読部門。