【旭堂南鷹の競馬講談したい馬】ダノンスマッシュにとってスプリンターズSは新たな伝説の幕開けにすぎない

2019年09月27日 20時58分

ダノンスマッシュにとってスプリンターズSは新たな伝説の幕開け

【旭堂南鷹の競馬講談したい馬】関西の競馬ファンには、暗黒の時代があった。今の競馬ファンには想像できないだろうが、大レースのほとんどは関東馬がかっさらっていった。

 その時代に希望の光となった馬が、テンポイントであり、サッカーボーイだ。阪神3歳Sの衝撃的な勝ち方が、全国の競馬ファンを驚かせた。しかし、僕たち関西人は、そのひとつ前、もみじ賞でタダ者ではないことを知った。

 僕はテンポイントをリアルタイムでは知らない。だけど、サッカーボーイがもみじ賞を勝った時、暗黒の地下壕に差し込む光を見たような感動があった。おそらくは、テンポイントにも同等以上の希望を、ファンは抱いたと想像できる。

 レース名が現在のもみじSに変わってからもビワハヤヒデ、フジキセキなど、名馬を輩出している。2年前のもみじSを勝ったダノンスマッシュも、相当な勝ち方だった。

 ただ、今はあの時代とは真逆の西高東低が長く続き、馬券は東西全レース購入可能で、東西の垣根は低くなった。そのせいで情報は共有されて、強い勝ち方をすれば、その名はまたたく間に全国に知れ渡る。そうした利便性が進歩する陰で、強い馬への神秘性はうせつつある。

 ダノンスマッシュのもみじSは、神秘的輝きを隠し持った競馬だった。僕はあの名馬たちを思い浮かべた。だが、一般的にあまり印象に残っていないのは、そうした時代背景があるのだろう。

「人の指示に従順で、操作性の高いところは父譲りだね」

 当時、調教師の安田隆行は言った。自らが育て、「世界」と形容される歴史的名馬ロードカナロアとの比較を惜しまなかった。それだけではない。

「2歳暮れ(カナロアは1戦1勝)の比較としてなら父に負けていない」とも言い切った。安田も、もみじSの内容で、スマッシュに無限の資質を感じていた。結局、少し遠回りをしたが、父と同じく4歳秋のスプリンターズSで、初GI制覇の好機を迎えた。

 調教にまたがる助手の安田景一朗が、ダノンスマッシュの進化を口にした。

「カナロアはスピード、バワーを兼備していた。でも、スマッシュは脚は負けずに速いんだけど、非力な感じがあった。でもこの秋は、重厚感が出てきて、馬が堂々としている」

 もとより大きな瞳を、より大きく見開いて話した景一朗の表情が、偉大な父に近づきつつあることを表していた。

 スマッシュにとって、父カナロアに迫るためにも、スプリンターズSを勝った先に、本当の闘いが待っている。ここは、新たな伝説の幕開けにすぎない。

 あの日、テンポイント、サッカーボーイをほうふつとさせた、もみじSで放った輝きを、僕は忘れることはない。この時が来るのを待っていた。

【プロフィル】きょくどう・なんおう 講談師。マイケル・ジャクソンの自伝を読んで講談師の道を決意。演目は競馬、MJの他に「五代友厚」をシリーズ化。毎週日曜7時~ラジオ関西「南鷹の今昔なにわ物語」出演中。夢はグラミー賞朗読部門。