【旭堂南鷹の競馬講談したい馬】セントウルS出走の3歳馬ファンタジスト

2019年09月06日 20時58分

ファンタジストの夢の行く末は…

【旭堂南鷹の競馬講談したい馬】秋競馬開幕には思い出がある。小学生のころ、阪神競馬場は今のようにスロープが直接スタンドにつながるのではなく、一旦スロープを降りて、パドック前の広場にセントウル像があった。子どもながらに、上半身が人間で、下半身が馬の姿をしたその銅像は気味が悪かった。それに目もくれずパドックに駆けこんだ。スタンドも今とは全然違い4階建てだったか、茶色い外装で地味な建物だった。親子連れも少なかったから、レストランの店員や穴場のお姉さん、パドックに陣取るオッチャンたちにも知られた存在で、大手を振って競馬場を歩く子どもだった。

 まだ4歳(現3歳)牝馬重賞のサファイヤSがオープニングに組まれていた。桜花賞馬やオークス馬の登場で場内はにぎわっている。僕は普段どおりに、ひとりでトイレに行った。スタンド1階を通り抜けると本馬場に出る。その手前にトイレがあった。入り際、目線を感じた。誰かが僕を見ている。用を済ませて外に出ると、「ぼく」と声を掛けられた。見上げると、両脇におまわりさんが立っていた。「お母さんは?」と聞かれ、「あっち」と指さす。まだ補導だとか馬券は二十歳からという基礎知識がないから罪悪感もない。

「馬券は買ってるの?」とおまわりさんが、小3男児に問うたのは、真っ赤に塗られた競馬新聞を見たからだろう。「ううん」と答える。当然、窓口に背も届かない年齢だ。自分では買えないのだから、ウソはなかった。親のところに戻ると親は恐縮したそぶりを見せていた。

 おまわりさんは、真っ赤な競馬新聞に目をやって「ぼくは、大きくなったら予想屋になりたいの?」と聞いたから「競馬中継でしゃべりたい」と言った。「頑張りや」と頭をなでられた。夢叶う秋の開幕。

 セントウルSが開幕週に移行したのは1987年。子ども心にがっかりした。サファイヤSとは違い、メンバーが華美ではなかったからだ。今はスプリンターズSの前哨戦として定着し、ようやく秋競馬開幕の存在感が出た。特に今年は、GI馬ミスターメロディの出走だけではなく、カテゴリーを超えたマテラスカイの挑戦もあり、より注目度を増している。

 僕は前走の北九州記念で大敗(14着)を喫した3歳馬ファンタジストにもう一度期待する。デビューから重賞2つを含む3連勝したのは才能の証。今度は僕が「スプリント王になりたいの?」と問い掛け、ファンタジストの夢の行く末を見届けよう。

【プロフィル】きょくどう・なんおう 講談師。マイケル・ジャクソンの自伝を読んで講談師の道を決意。演目は競馬、MJの他に「五代友厚」をシリーズ化。毎週日曜7時~ラジオ関西「南鷹の今昔なにわ物語」出演中。夢はグラミー賞朗読部門。