【トレセンの常識 私の非常識】平田調教師が教えてくれた「放馬は怖くないんです」

2019年08月05日 21時32分

やんちゃな馬もすぐに手なづける平田調教師

【トレセンの常識 私の非常識by謎の女記者・赤城真理子】今回の“非常識ワード”は「放馬」。先週の「馬最優先」にも通じる話ですね。サラブレッドには草食動物としての危機察知・回避本能があり、さらに普段から厳しいトレーニングを積んでいることで、よりデリケートな状態となっています。放馬が起こる理由もここにあるみたいなんです。

 競馬場では大変な騒ぎになる放馬も、トレセンでは頻繁に起こるもの。近くでハトが飛び立ったとか、前の馬がちょっとバタついたとか、突風が吹いたとか…。“普通に起こり得ること”が放馬につながってしまっても、おかしくないんです。そんなときの対処法――。それはたぶん、皆さんが想像するよりも、かなりアッサリしています。

 以前、某厩舎の女性スタッフさんから「平田先生がウチの放馬した馬を捕まえてくれたんです。めちゃくちゃカッコ良かったですよ」って話を聞いたことがありまして。一応、担当厩舎の私のイメージは、気さくでおおらかでユーモアにあふれていて、あとお菓子大好き…。めちゃくちゃカッコ良かった? うそやん。このイメージがどうにも湧かず…。「カッコ良く放馬を止めた」らしい平田調教師を直撃。放馬の対処法を聞くことに。

「な~にを言っとりますがな!」

 女性スタッフの高評価に、ちょっとだけ、いや、かなり照れた様子の平田調教師によると、「ある程度は走らせて、バテてきたところを“通せんぼ”するのが基本。本当にバテていたら、それで止まるから」。

 まだ元気な場合は突進してくるので、その時は無理をせずに、バテるのを待つんですって。

「何か理由があってパニックになり、暴走するんだけど、馬もホントは止まりたいねん。でも、一旦走りだした手前、どうしたらいいんか分からんから止まれない。キッカケさえつくってやれば、案外ホッとした顔で寄ってくるし、しまいにはその辺の草とか食べだすから。そうしたら後ろには回らず、前から引き手を引っかけてやれば、もうおとなしいもんやわ」

 実際に少しうるさい馬に引き手をかけてもらいました。最初はかみつこうとしても、引き手をかけられ、グッと引き寄せられると人(馬)が変わったように従順に。「引き手を引っ張られる=従う」はサラブレッドのDNAに組み込まれているんでしょうね。

 平田調教師による放馬の対処法には、根本に馬への深い愛情がある。そう感じませんか?

 初めてトレセンで放馬を見たとき、私はある関係者に「放馬って怖いですね」と。すると、その方は「街中で知らない人が泣きながら暴れていたら? もちろん怖い。だけど、それが友達だったり、家族だとしたら? 心配するし、理由を知りたいと思うよね。それと同じ。なんか知らん馬が暴走してると思うと怖いけど、理由があるんだろうなと考えれば、怖いという感情は湧かなくなると思うよ」。――! 本当にその通りです!! まずはサラブレッドの特徴を知り、彼らの行動の理由を知ること。それが〝理解〟につながるのだと頭を殴られた思いがしました。次回は「馬運車」について。これも人の目線と馬の目線、両方から迫っていきたいと思います。