【思い出のGIレース=2017(平成29)年「宝塚記念」】“凡走”キタサンブラック 厩務員が口にしていた違和感

2019年06月18日 21時30分

1着でゴールしたサトノクラウン騎乗のM・デムーロ(左、ピンク帽)がガッツポーズする後方、失速し9着に敗れたキタサンブラック=武豊(右、ピンク帽)

 勝った馬より負けた馬のほうが記憶に残るレースが時にある。2017年の宝塚記念はそのひとつだ。

 大阪杯→天皇賞・春とGIを連勝し、飛ぶ鳥を落とす勢いだったキタサンブラックが直線でまさかの失速(9着)。不利があったわけではない。馬場が合わなかったわけでもない。負けるはずのない馬が、なぜ…。

 主戦の武豊でさえ「走らなかったですね。正直、分からない」と首をかしげた凡走である。理由のハッキリしない敗戦に清水久調教師も「行きっぷりがいつもの感じじゃなかった。これまでならビュンと行く馬なのに」と、ただ肩を落とすしかなかった。

 天皇賞・春をスーパーレコードで駆けた反動なのか、GI・3連戦の疲れだったのか、今でもハッキリした答えは分からない。けれど、あの時のキタサンブラックはいつもと少し様子が違っていたのは確かなようだ。

「今回は自分からノッていくというか、内面からにじみ出てくるものがないんですよね。こういうことは初めてで」

 声の主はキタサンブラックの担当・辻田厩務員。宝塚記念の最終追い切り翌日だったと記憶している。景気のいいコメントを期待して取材に行くと、返ってきたのは思いがけない答え。おそらく不安とも言えないくらいの、小さな違和感だったのだろう。天皇賞・春でサトノダイヤモンドとの現役最強対決を制したキタサンブラックが少々のことで負けるはずがない。これが当時の共通した認識で、辻田厩務員も「もちろん状態はいいですよ。レースに行けばしっかりスイッチの入る馬ですし、終わってみれば精神的に成長したと言えることなのかもしれませんね」と前向きに会話を締めくくった。

 それがまさかの結末である。「馬はロボットじゃなく、生き物」。厩舎関係者から何度も聞いてきた言葉だが、それを強く思い知らされたのがこの時だった。

 競馬の世界は騎手や調教師のコメントがクローズアップされがちだが、同様に助手や厩務員の話に耳を傾けることも必要だ。辻田厩務員が感じた小さな違和感。それは誰よりもキタサンブラックのそばにいたからこそ、気付くことができたものなのだろう。

(栗東担当=西谷哲生)