【天皇賞・春】時代の分水嶺を制するのは?平成初のVはイナリワン

2019年04月27日 16時30分

 2019年4月1日。日本中が固唾をのんで見守る中、645年の「大化」から数えて248番目の元号となる新元号「令和」が発表された。「暦応」(1338~41年)以来約680年ぶりのラ行の響きとともに注目を集めたのは、この「令和」が万葉集から引用した初の国書由来の元号であること。漢籍からの典拠を慣例としてきたこれまでとは一線を画す、文字通りの新時代が5月1日からスタートすることになる。

 一方、「平成」の由来となる典拠は「書経」の「地平天成(地平かに天成る=天地ともに平和になる)」と、「史記」の「内平外成(内平かに外成る=国の内外が安定する)」に求められる。中国の儒教の経典「四書五経」の一つである前者に対して、後者は司馬遷によって編さんされた黄帝から前漢の武帝までの時代を記した歴史書。「史記」の主たる叙述の対象が時の為政者である王と諸侯だけに、馬名に王(オウ、オー)の入るエタリオウ、ケントオーの2頭はぜひとも押さえておきたいところだが…。それ以上に強烈なサインを放つ存在がいるとなれば、主役の座はその馬に託さざるを得ないだろう。

 1989年4月29日。「昭和」から「平成」へ改元後、初の天皇賞・春を制したのがイナリワン。盾へと導いたのは当時20歳の武豊。デビュー3年目ながら前年の菊花賞(スーパークリーク)でGⅠ初制覇。この年も桜花賞をシャダイカグラで制して“若き天才”の名をほしいままにしていた俊英の手綱に導かれて…というストーリーからは、ついついエリート像を頭に思い浮かべてしまうのだが…。イナリワンのデビューは南関東の大井競馬場。地方競馬で実績を挙げてJRAへ移籍してきた、いわゆるマル地である。叩き上げの雑草の勝利で幕を開けた「平成」の天皇賞・春。ならば、その掉尾を飾るに最もふさわしいのもマル地ということになろう。

 今年のメンバーで唯一のマル地がリッジマン。ホッカイドウ競馬でデビューし、その後JRAへ移籍。芝の長距離戦でその才能を開花させた異色のマラソンランナーだ。馬名の英語表記は「Ridge Man」。直訳すると「頂の男」という意味になるが、「Ridge」には物事の方向性が決まる分かれ目のたとえ=「分水嶺」という意味もある。平成最後のJRA・GⅠである今年の天皇賞・春は「平成」と「令和」、2つの時代のはざまに位置する分水嶺。マル地の勝利から始まった「平成」の終わりに、再びマル地の雄が頂点へと駆け上がる。