【桜花賞】“叩き上げの女王”ダノンファンタジー強さの原点

2019年04月03日 21時33分

女王ダノンファンタジーは坂路を軽快に駆け上がった

【桜花賞(日曜=7日、阪神芝外1600メートル)中内田厩舎担当・石川記者が斬り込む!】ダノンファンタジーを管理する中内田厩舎の「番記者」といえば、石川吉行。西の名物記者だ。デビュー前から2歳女王に密着し続けてきた男が、今までの女王とはひと味違う、進化し続ける王者の強みを、余すところなく語り尽くした。

 王とは頂点に立つ者。その実力を世に知らしめ、権力を行使することでさらに支配を強め、統べる者。しかし、王者にはそれぞれの形がある。圧倒的な力の違いで、ライバルを完膚なきまでにねじ伏せて君臨する者もいれば、大きな実力差は感じさせずとも、トップの位置にあり続けることで周囲にこれを認めさせる者も。前者があっけなく陥落することがあるのに対して、意外にも後者のようなタイプが長く権力を有し続けたりするものだ。

 ダノンファンタジーが2歳女王として、クラシック1冠目の桜花賞へと打って出る。唯一のGI覇者にして、王道トライアル・チューリップ賞の勝者。「女王」の名にふさわしい実績を誇りながらも、例年の1番人気馬に比べて〝“絶対女王”というイメージを世間に抱かれていないのはなぜか? ダノンファンタジーが唯一、敗れた新馬戦。その相手が桜花賞で再び相まみえるグランアレグリアという点が“絶対感”を失わせている。

 時計の針を戻そう。昨年6月初めの新馬戦。ダノンファンタジーは、アウェーである東京競馬場への遠征を敢行する。

「まだ緩さは残りますが、この時期の2歳なら当たり前のこと。調教で動けてますし、いいところだとは思うんですけど…。関東にすごく強い馬が1頭いるらしいですね」

 当時、ライバルの動向を気にかけていたのは猿橋助手だ。結果はグランアレグリアに2馬身差をつけられる2着完敗。一度きりの新馬戦を勝てなかったことで、将来を見越したローテーションに狂いが生じることも危惧されるところだが…。

「勝てはしませんでしたが、東京のマイル戦を経験できて、緩いなかでもあれだけの走りができたんですからね。将来が楽しみになりました」と猿橋助手はその内容を評価し、敗戦に関しては「意にも介していない」と告げた。

 敗れたとはいえ、ダノンファンタジーの走破時計1分33秒9も並の2歳馬に出せる数字ではない。素材の良さを確信できたとなれば、あとは翌年のクラシックに向けて、レベルをさらに一段上げるべく、成長を促す時間が必要となる。陣営は目先の1勝を追うことなく、夏場は放牧へ出すことを即断する。

 プラス18キロと思惑通り、馬体に成長の見られた秋の未勝利戦を楽勝。その後の連勝街道の歩みは周知の事実である。

 しかし、勝利という結果だけにとらわれず、一戦ごとの経過を洞察すれば、ダノンファンタジーが常に課題と向き合ってきたことが垣間見える。初めての重賞挑戦はファンタジーS。クラシックを目指す素質馬がなぜ1400メートルの距離を選択したのか?

「前向きでスピードのある馬ですから、競馬はしやすいでしょう」と猿橋助手はコメント。意図を取り違えれば、スピード任せに“短距離重賞を勝ちにいく”と判断してしまうところだが、レースでは好スタートを切りながら、他馬を先に行かせる、いわばマイルを意識した立ち居振る舞い。調教で見せる前向きさが折り合い難へとつながらないように、あえて速いペースになりやすいレースを選択したのだ。

 阪神JFで代打を務めたC・デムーロは一旦、後方まで位置取りを下げる競馬での勝利後に、「リラックスして走れることを心掛けた」とコメント。これは名手が調教にまたがったことでつかんだ特徴が、“ポジションを取りにいけば力んでしまう”解釈であったことを示す。

 対してチューリップ賞は最内枠ということに重きを置いて、位置を取りにいくことで、どうなるかを試すような競馬。窮屈になる場面にも鞍上は慌てず、ラストの瞬発力を引き出すことに成功した。

 4連勝を改めて振り返ると、陣営が勝利という結果のみにこだわっていなかったことがうかがい知れる。その始まりは敗戦を喫した新馬戦。それからここまでダノンファンタジーがレースで素質をフルに発揮できるよう追い続けた日々の尽力が、はたから見る“女王”の位へと押し上げる結果へとつながったのだ。

 もちろん、まだ課題は残る。ジョッキー騎乗の1週前追い切り。ウッド5ハロン63秒台の時計は、見た目にも明らかな暴走。これが“絶対王者”であるのなら、不安説のひとつもささやかれるところだろう。

「もともと、そういうタイプの馬ですし、ずっとこういう調整でここまできましたからね。ジョッキーが乗る追い切りと、調教師が乗った時ではスイッチの入り方が違ってきますし、また競馬では変わってくるので大丈夫ですよ」と猿橋助手。

 メジャーエンブレム、ソウルスターリング、ラッキーライラックと2歳女王が敗れ続けている桜花賞。文句なしに完成度の高かった彼女たちに比べ、ここまで弱点を世に示しながら、その都度、課題をクリアしてきたダノンファンタジーはある意味、異質の女王だ。

 だからこそ逆に、思わぬ“死角”を見せる心配のない馬だと言えるのかもしれない。