【アンカツ連載①】記録と記憶に彩られた名手の秘話

2013年02月09日 11時00分

【地方・中央“統一王者”安藤勝己4464勝の真実(上)】地方・中央にまたがる37年間のジョッキー人生に別れを告げたおなじみの安藤勝己騎手(52)。今日から3回にわたり、様々な記録と記憶に彩られた名手の現役時代の秘話を、おなじみのライター・平松さとし氏が解き明かす。

 1月30日、“アンカツ”こと安藤勝己が引退を発表した。1995年、笠松所属のままJRAの重賞を制し、2003年、史上初めて地方出身騎手としてJRA騎手試験に合格。JRA所属ジョッキーとして数々の栄冠を手にし、記録を残してきた。

 私が彼を取材するようになったのはJRA移籍の少し前。十年余りの取材で素顔がうかがえるエピソードは数多いが、中でも印象に残っているのは某雑誌の企画で08年に行った横山典弘との対談だ。

 その際、横山は何度も「安藤さんは達観している」と口にした。実際、安藤の口からもそう思わせるセリフがポンポンと出てきた。いわく「この年齢になると乗り替わりも怖くない。失敗したって乗り替わりになるだけじゃないかって思えるようになった」「どんな指示があろうと好きに乗ればいい。誰だって勝ちたいと思って乗っているんだから」「出遅れたら出遅れたで仕方ないと考えて乗っている」。

 さらに、横山とともに爆笑したのが次の言葉だ。「スタート前、ゲート裏の輪乗りの時に、景色をみて『あぁ、絶景だなぁ…』なんて思っていることもある」

 しかし、同じ勝負師である横山は、その言葉をうのみにしてはいけないと後に語り、さらに続けた。「安藤さんだっていざとなると降着になるかどうか、ギリギリという線で勝負してくる。レース中はやっぱり闘志に火が付いていると思わせることがたびたびあります」

 その通りだろう。安藤が先に述べた言葉を真に受けると、ファンや関係者からとっくに見放されていてもおかしくない。ところが実際はきっちりと勝ち鞍を残し、大舞台でも結果を残してきた。

 達観している一面と勝負における厳しさ。この両面をバランス良く持っていた騎手。それがアンカツだったのだ。

(文中敬称略、競馬ライター・平松さとし)