藤田菜七子を預かった根本調教師の“ホースマンとしての意地”

2016年03月10日 21時01分

藤田菜七子を見守る根本調教師(右)

【美浦トレセン発秘話】公営・川崎、中央・中山の競馬場のみならず、テレビの情報番組までヒートアップする“時の人”藤田菜七子。「預かると決まった時は、こんな事態は想定しなかった」とは師匠・根本康広調教師の言葉だが、その心境はおそらく当人も同じだろう。今は応援とバッシングが紙一重の時代。静かに競馬に集中できない状況は、少々かわいそうな気もしている。

 

 もっとも、その境遇を最大限に理解する一人が武豊かもしれない。6日、中山での菜七子の単独会見では飛び入り参加で助け舟。軽妙なトークで周囲の雰囲気をなごませた。デビュー時から天才と評され、以降30年“競馬の広報役”を務めたからこそ分かる、注目という名の重圧。それを「こうしてサラッと流せ」と言わんばかりの機転の利いたパフォーマンスに、当方は武豊のすごみを改めて感じた次第だ。

 

 ただ、そんな菜七子にとって最大の幸運は、所属厩舎が根本厩舎だったことではないか。数年前に同師がしみじみと当方に語ったことがある。

 

「今のご時世、美浦で強い馬を育てるにはかなり状況に恵まれないと難しい。ただ、トレセンで育てるのは馬ばかりとは限らない。オレはここで強い人を育てようと思う」

 

 丸山元気、野中悠太郎、藤田菜七子…騎手のフリー化が進む中で、所属ジョッキーを3人も抱える厩舎は東西広しといえども根本厩舎だけ。そこにホースマンとしての意地が透けて見える。さらに師匠は自身の経験をもとに、こんなエールを愛弟子に送る。

 

「マスコミへの露出? 大いに結構だと思うよ。オレがジョッキーだったころ、師匠の橋本(輝雄)先生もそういう人だった。自分が映画(『優駿 ORACION』=88年公開)出演した時には“本業をおろそかにして”などと非難する声も周囲から上がったが、先生の見方は違った。“それはお前のアピールに、競馬のアピールにもなる。どんどんやれ”って。そんな経験や人付き合いが、いずれ財産になる時が来る。だから菜七子にもチャンスと思って頑張れ、と言っている」

 

 中央デビュー戦いきなり2着と周囲の度肝を抜く活躍を見せた菜七子。見習い騎手として美浦に来た当初は、調教でも細かな注意を受けていただけに“ひよっこ”のイメージが強かったが、どうしてどうして…。“持ってる女”の成長を、ファンも長い目で温かく見守ってほしいものである。