【デイリー杯2歳S】2009年レース登録を忘れるほど大きかった素質馬リディルの故障

2020年11月13日 20時00分

デイリー杯2歳S制覇後に骨折が判明したリディルはスワンSで復活の重賞Vを果たした

【松浪大樹のあの日、あの時、あのレース=2009年デイリー杯2歳S】2009年の東京スポーツ杯2歳Sを勝った馬はローズキングダムです。え? それは来週のレースで、今週の2歳重賞はデイリー杯2歳Sですって? もちろん、それはわかっています。レース名を間違えたわけでも、勘違いをしているわけでもありません。今回の話はデイリー杯。しかし、東スポ杯の話をあと少しだけ続けさせてください。

 ローズキングダムは僕が公私ともにお世話になった橋口弘次郎調教師の管理馬でした。僕にとっては唯一無二の存在と言える方です。そんなトレーナーの管理馬が自社の冠レースである重賞を勝ったのですから、とてつもなくうれしかった。本当にうれしかったんですよ。もちろん、その後の朝日杯FSは由緒正しき〝薔薇一族〟にとって悲願のGⅠ初勝利であり、橋口厩舎の主戦騎手でもあった小牧太騎手とのコンビでの初GⅠ勝利でもありました。もちろん、この勝利も相当にうれしかったんですけど、東スポ杯はそれと別の意味でもうれしかったんです。

 2009年11月15日の午後。東スポ杯が行われる1週前の日曜日。僕は橋口師に1本の電話をかけさせてもらっています。「先生、ローズキングダムの東スポ杯の1週前登録。ちゃんとしてもらえましたか?」と。ローズキングダムは我が社にとっては大事な主役馬であり、同馬の出走を見越した記事も出来上がっている。確認の意味があっての連絡だったんですが、念を入れた理由もありました。そして、その結果も懸念した通りのものでした。「あ、そうか。東スポ杯は来週だったな。忘れてたよ。すぐに連絡し、誰かを事務所に行かせて登録させるから」。もちろん、橋口師は大事な素質馬の重賞登録を忘れてしまうような人ではありません。そして、僕が確認の電話をかけさせてもらったのもこの日が最初で最後です。なぜ、そんなことをしたのか? その理由こそが今回の主役であるリディルという馬にあるのです。
 
 ローズキングダムと同じ年の素質馬で、ローズキングダムより先に重賞勝ちを果たした馬。そのリディルが初重賞制覇を果たしたレースが今週末に行われるデイリー杯2歳S。見事につながりました(笑)。当時とは行われるコースも施行時期も違いますけど、この一戦は本当に強かったんですよ。2着馬に付けた着差はわずかにクビ。その成績だけを見れば、そんなに強いと思わないかもしれませんが、その2着馬は次走の京王杯2歳Sを勝ち、朝日杯FSでも2着に入ったエイシンアポロンで、肝心のリディルのレースぶりは「そんな競馬で大丈夫なの?」と思ったくらいの大外一気。橋口師も「これで胸を張ってGⅠに向かえる」と言っていたほどだったんです。
 
 ローズキングダムの当初の予定は東スポ杯→ラジオNIKKEI杯2歳Sでした。リディルの故障によってローズキングダムのローテーションが変更されたことは有名な話ですし、ご存じの方も多いでしょう。勘のいい方は気付きましたかね?

 そのリディルの骨折が判明した日が東スポ杯の1週前登録前日。僕が電話をした日曜日、橋口師は鳥取の大山ヒルズにいたんです。リディルの骨折は「あまりのショックで他のことが考えられなくなってしまった」と言うほどで、復帰までに1年3か月の時間を要するほどでした。数々のタイトルを獲得した名トレーナーをそれほどまでに落胆させ、ローズキングダムの登録をうっかりと忘れてしまうほどのものを、リディルという馬は持っていた。そんな背景を知っていることもあり、あの時期の骨折がなければ…と考えてしまうんですよ。実際、リディルは2年後に同じ京都のGⅡスワンSを勝っています。素晴らしい馬であったことは間違いないんです。

 橋口師の落胆を振り払い、朝日杯FSへの大切な第一歩となった東スポ杯。その勝利は単なるGⅢ勝ちでなく、もっと深い意味があるものだったんです。少なくとも、僕にとっては。