【清水成駿の競馬春秋】
アメリカJCCはやや緩い流れ(5F通過61秒1)から直線、あと300で横一列に並んだヨーイドンの叩き合いを、いつもより前目につけたヴェルデグリーンが外から鮮やかに差し切ってみせた。
これで昨秋のオールカマーに続きGII2つ目の勲章。着実に力をつけている。自分から動いていっての勝利。展開が嵌まった印象のオールカマーとは一味も二味も違った。GIでは少し足りないが、GIIでは確実に上位に差し込める地力を蓄えたよう。3頭が揃った暮れの有馬組(10着)ではヴェルデグリーンの方であったか。
2着には早めのスパートからフェイムゲーム、レッドレイヴンらの追撃を一杯いっぱいに振り切ったサクラアルディート。叩き3戦目でようやく馬に芯が通ったこともあるが、最大の功労はこの日の鞍上ベリーの冴え。一日を通して乗れていた。
とまれ最終日は記録尽くしの一日。悪い記録も2つばかりあったが、良い記録の方が多い。中京では武豊が前人未到の3600勝をあげ、ヴェルデグリーンの田辺もその前の若竹賞で通算400勝の区切りをつけた。
中でも光るのは引退を1ヵ月後に控えた松山康師の1000勝。史上14人目の快挙。親子2代にわたる1000勝。あと2勝でずっと足踏みが続いていただけに、さぞホッとされたことだろう。
お父上は「鬼」の異名をとり数々のエピソードを残した馬一筋の名伯楽。
障害の横に立ち、飛べない馬の尻を竹箒で叩く姿は、正直、びっくりしたものだが、それもこれも1勝のため。馬にも人にも厳しかった。厳しかったからこそ亡くなられた吉永正人さんも名手として羽ばたいた。馬も人も育てたのだ。
康久師もそんな馬一筋のDNAを受け継がれた方。
新聞のコメントに悪い話は一切ない。悪ければ使わないというのが信念。だから時に当方のコラムはお小言を頂戴した。当然、「馬は全レースを勝とうとは思っちゃいない」という切り口が相反する。師は常に完璧な仕上げ、マジで全レースを勝とうと思っているのだ。
馬一筋、直球一本やり、信念の人。そんな努力の1勝1勝、小さな積み重ねがついに通算1000勝の大台に押し上げた。心からよかったと思う。同時に地元のラスト東京でどれだけ上乗せできるか。そちらの方も大いに楽しみ。
【競馬JAPAN】