オルフェ池江師「家康の心境」

2012年06月22日 12時00分

【連載:オルフェーヴル再起動への道(4)】

「菊花賞の時と、ちゃんと見比べてほしい」

 追い切り直後から池江調教師が繰り返し口にするフレーズは、報道陣、その向こう側にいるファンへの率直な思いが表れている。

 菊花賞の最終追いでは、坂路スタンドの調教師からも感嘆の声が漏れていた。その声も今回は聞こえない。徐々に良化をたどっているとはいえ、トモはいかにも寂しく「当日(宝塚記念=24日)に7割に持っていければ」が復権を期す王者・オルフェーヴルの現実だ。

 しかし陣営は厳しい戦いに、いつもと変わらない姿勢で立ち向かう。その最たる例が不足している闘争心。改善方向にあるのは間違いないが、その闘志も人間が追加注入できるものではない。

「気合の面は、こちらからはどうしようもない。無理に気持ちを乗せようと普段からずっと併せ馬をやったり、自分たちのペースで進めようとするとかえってよくない」(池江調教師)

 焦らない、じたばたしない。その根底にあるのはオルフェーヴルを取り巻く経験の結晶だ。

 母オリエンタルアートの血統は、全兄ドリームジャーニーから、きょうだい6頭中5頭が池江厩舎に所属した。中には脚元に不安を抱えたまま引退を余儀なくされたり、気性難で出世を阻まれた素質馬も。心身のバランスを保つことの難しさと向き合ってきたことが、今回の見守る姿勢にたどりついたわけだ。

「厩舎や牧場でオルフェーヴルに携わる人間は、この血統を知り尽くしている。失敗もしているし、関わり方もね」(池江調教師)

 乗り運動や引き運動、追い切りと、これまで終始同じスタンスを貫いてきた。前の馬を抜こうとする前進意欲、馬房内でのうるささも取り戻しつつある。追い日翌日の21日朝は、トゥザグローリーを前に置いて、自厩舎周りの運動を行った。「コズミも見られず、追い切ってからも良くなってはいる」と池江調教師。

「徳川家康だよ」

 指揮官のこのひと言が端的に物語る。策なき白旗宣言ではなく、オルフェーヴル本位で闘争本能の目覚めを待っているのだ。