藤田菜七子が進化を証明 JRA女性騎手最多勝記録を更新

2018年08月28日 21時31分

順調に勝ち星を積み上げて笑みが絶えない菜七子

 またまた菜七子がやった――。土曜(25日)新潟12Rで増沢(旧姓・牧原)由貴子元騎手と並んでいたJRA女性最多勝記録を更新する35勝目を挙げた現役唯一のJRA女性ジョッキー・藤田菜七子(21=美浦・根本厩舎)が、日曜(26日)新潟6Rを4番人気マルーンエンブレムで制して36勝目をマーク。自ら掲げた“課題”に一発回答を出し、大舞台での活躍を大きく手繰り寄せた。

 先週の日曜(19日)新潟で2勝を挙げてタイ記録に並ぶや、土曜新潟12Rをセイウンリリシイで制して新記録を達成した菜七子。足踏みをすることなく一気に未到の領域へ踏み込んだが…。このレースまでの直近の6勝はいずれも平場戦での逃げ切りである点に物足りなさも残る。菜七子のような見習い(減量)騎手は平場戦だと負担重量軽減の特典(※注)がある。彼女の場合は2キロ。騎乗を依頼する側にとってこの軽量は魅力で、そしてその恩恵を最も生かせる戦法が“逃げ”でもある。

「逃げ馬が得意なのは馬に対する“あたり”が身体的にも柔らかいからだろう。ただ逃げ馬にとってより重要になるのが斤量。2キロ減は大きな武器になる」と“恵量”の優位性を説明してくれたのは騎手だけでなく調教師としても活躍し、今年2月に引退した小島太氏(71)。裏を返せば減量がない特別戦、とくに差し・追い込み馬に見習い騎手は乗せにくいことになる。

「才能がある、と目をかけてきた若手は少なくない。ただ特別戦や重賞ともなると平場のようにはいかない。勝負に徹する以上は経験豊かなベテランや外国人騎手に依頼するのは当然のこと」と同氏は調教師サイドの事情を明かす。

 ここにきてハイペースで勝ち星量産の菜七子だが、特別レースの騎乗数は26日終了時点で37(0勝)と、昨年の43(1勝)を上回れていない。つまりオーナー&厩舎サイドからの信頼度は格段にはアップしていないようだ。そして近い将来、101勝目を挙げれば平場での減量特典もゼロとなる…。ただし外野が心配しなくとも、当人のプロとしての自覚が十分過ぎるなら未来は暗いものではない。

 ジョッキーを目指すきっかけになった競走馬がダイワスカーレット。軽快な先行力を武器に2008年有馬記念など、GI・4勝を挙げた名牝は今も憧れの存在だが「その馬の持てる力を出し切れるような競馬ができれば。逃げでも追い込みでもどんな競馬でも自分はやらなければいけない」と“型”からの脱皮の必要性を痛感している。

 さらに「これまでの記録を作ってくれた女性ジョッキーの方々に感謝をしつつも、ひとつの通過点として乗り越えていきたい。一人のジョッキーとしてもっと勝ちたい」と決意を表明。そして、日曜はいきなりの有言実行で“ジョッキー菜七子”をアピールした格好だ。

 マルーンエンブレムとはデビュー2戦目の前々走(未勝利戦1着)からコンビを結成。その理由は脚質といった戦術面ではない。オーナーのシルクレーシング・米本昌史代表(43)は「380キロ台の小柄な牝馬。なるべく負担を掛けないようにと、減量騎手を探す中で調教師から提案をいただきました。こちらとしても異論はありませんでした」と経緯を説明する。

 昇級初戦の前走では最速上がりで2着を確保と、500万下通用の脚を見せた。

「今回は2枠2番と内枠からのスタート。脚質的に包まれないかと…」(米本氏)と不安を抱えながらのゲートインは4番人気という微妙な評価にも…。

 二の脚がつかずスタート直後こそ後方を追走も、鞍上に慌てるそぶりはまったくない。3角から徐々に外に持ち出すと、全くロスのない進路取りで直線入り口では先行勢を射程にとらえる。菜七子当人も「前に目標になる馬がいたので、あとは追い出しのタイミングを計るだけでした」と振り返る沈着冷静な手綱さばきを「完璧な騎乗でしたね」と米本氏も絶賛した。

 日本最長となる658・7メートルのホームストレッチを誇る新潟芝外回りでの勝利は40戦目となる今回が初めて。この事実も菜七子が男性ジョッキーと同じ土俵で評価すべき存在になったことの証明となろう。

 2勝目を挙げた3歳牝馬となればトライアルでの権利奪取からGI秋華賞(10月14日=京都芝内2000メートル)への挑戦も現実味を帯びてくる。しかし「紫苑S(9月8日=中山芝内2000メートル)では中1週になるので…」と管理する小島調教師は放牧によるリフレッシュを示唆。待望のGI騎乗はしばしお預けになりそうだが「こちらとしては引き続き乗っていただきたい」と米本氏はコンビ継続を熱望する。

 来年のGIエリザベス女王杯騎乗は確定的? 先過ぎる話はともかく、特別戦や重賞といった大舞台での豪快な差し切り勝ちを披露するシーンは、そう遠くない未来のことかもしれない。

※注=技術的に未熟な若い騎手に騎乗機会を多く与えるための斤量軽減制度。JRAでは免許の通算取得期間が5年未満で、勝利度数が100回以下の騎手に特別競走&ハンデキャップ競走以外に限って1~3キロ負担重量が軽減される(30勝以下=3キロ、31~50勝=2キロ、51~100勝=1キロ)。