【ヴィクトリアマイル】迷い消えた岩田がレッツゴードンキをVに導く

2018年05月09日 21時34分

調教でも常に走る気満々のレッツゴードンキ

【ヴィクトリアマイル(日曜=13日、東京芝1600メートル)童顔オッサン記者が密着】一度、地獄を見た男に怖いものはない。ヴィクトリアマイルでレッツゴードンキに騎乗する岩田康誠(44)は、今まさにドン底から這い上がり、華麗なV字曲線を描いている最中だ。栗東トレセンはもちろん、京都、そして園田競馬場…。岩田のあるところに密着マークを続けた童顔のオッサン野郎・江川佳孝記者が岩田の今とドンキの可能性に迫る――。

「早くGIを勝ってスーッとしたいなぁ」

 天皇賞・春の最終追い切りの朝、ふと漏らした言葉は、淀のターフで現実となった。直線で早々と先頭に躍り出たシュヴァルグランに対して、最後はお家芸の「イン突き」。見事にクビ差で捕らえ、相棒のレインボーラインを初GI制覇に導くとともに、自身も3年ぶりのビッグタイトルを手にしたが…。周知の通り、レース後に下馬する事態に。ウイニングラン、写真撮影も行われず、レインボーラインは現在も経過観察中という状況だ。当時、喜びを封印した岩田は改めて、こう振り返る。

「ゴール前は必死でした。最後は馬も一杯でしたが、もうあそこしかないと思って。でも、やっぱり後味は悪い。まだ、喜ぶに喜べない…」

 そう言葉を詰まらせた後、ポツリと言った。

「もし外に行ってたら、どうなっていたのかな」

 内に切り込まなければ勝てなかったのか…。真っすぐ走れば馬は故障しなかったのでは…。岩田が思いを巡らす「もし」の先は誰も分からない。ただ、一つ言えることはインを突いた彼の「執念」が愛馬に栄冠をもたらした、という事実だ。

 岩田の“魂の騎乗”はもろ刃の剣。真骨頂でもある「イン突き」は多くのタイトルをもたらしたが、その代償として挫折の遠因にもなった。

「ちょっとでも近道を…っていう気持ち。でも強引に行き過ぎてはアカン。周りの馬に迷惑をかけたり、(自身が)ブレーキを踏んでしまったり…。そこを冷静に判断できず、ずっと頭の中がモヤモヤしていたんです」

 年間JRAのGI・6勝という驚異的な成績を挙げた2012年。そこから徐々にGI勝ちは減り続け、16年は一つの重賞すら勝てなかった。

 地獄の真っただ中でも前を向いた。「馬の気持ちを感じるため」競馬開催前の早朝、競馬場のコースを走るイメトレを導入。どんな状況でも「勝ちたい」気持ちだけは持ち続けた。

 考えてみれば、3200メートルも走ってクビ、ハナの差で明暗が分かれる世界。その差を岩田は「最後はジョッキーの気持ち」が結果になって出ると本気で信じている。

 ヴィクトリアマイルで騎乗するのは3年前に、ともにビッグタイトル(桜花賞)を手にしたレッツゴードンキ。馬房では「人懐っこい女子」の一面を見せてファンの人気を博す一方、レースになるとガラリ一変。「もともと芝もダートも走るタフな馬。追い切りやレースになると、スイッチが入るのが分かる」と絶賛するこの“格闘女子”こそ岩田にはよく似合う。

 前走の高松宮記念はファインニードルと直線で叩き合った末にハナ差の2着。「一瞬、“勝った!”と思ったけど…。ちょっと仕掛けが早くて、脚が上がってしまった」

 振り返れば、昨年のヴィクトリアマイル(11着)も「考えていたレースはできたんだけど、3~4コーナーで力んで脚を消耗してしまった」。

 前走の惜敗、そして昨年の惨敗を踏まえ、岩田は「どこで脚を使うかだけど、もう以前の二の舞いにはならない。あの馬の瞬発力を生かして、レースがハマればチャンスはあります」。

 ちなみに「イン突き」と並び、ジョッキー岩田の代名詞になっている、体の上下動の激しい独特な騎乗フォームについて「一瞬の脚は使えるけど、持続力はない。いい部分も、悪い部分もある」と認めつつ、「でも園田がつくってくれた乗り方。それが染み付いて、ここまできた」と自負も口にする。

 その園田競馬場で行われた3日の兵庫チャンピオンシップでは、テーオーエナジーに騎乗して勝利。JRA移籍前に所属していた、かつてのホームで英気を養い、モヤモヤは完全に吹っ切れた。

 レッツゴードンキとは何度も2着惜敗で涙をのんできたが、屈辱の時を経て、奇才のレース勘は確実に戻りつつある。今週末、馬上で歓喜の拳を上げる岩田の姿が見たくてたまらない。