格闘技イベント「RIZIN.13」(9月30日、さいたまスーパーアリーナ)で総合格闘技(MMA)デビューする大相撲の元幕内大砂嵐(26=エジプト)が、都内で入院中の元横綱曙(49)を訪問した。MMA挑戦を報告すると、元横綱は力強く激励で返した。一時は生死の境をさまよったが、現在は懸命なリハビリを続けている。2人の間にはいったい、どんな会話が交わされたのか?本紙が独占公開する。

 注目のMMAデビューを2か月後に控えた大砂嵐が向かったのは、長期欠場を続ける曙の元だった。外国人力士として初めて横綱に上り詰め、先駆者として格闘界への道を切り開いてくれた大先輩にひと目、会っておきたかった。

 病室に入ると、柔和な笑みを浮かべた曙の姿があった。210キロあった体重は150キロ程度まで落ちていた。体はひと回りもふた回りも小さくなったが、威圧感あるオーラは健在だった。

 ハワイ出身の曙と、エジプト出身の大砂嵐は日本語を交えつつ、英語で言葉を交わした。緊張をほぐすかのように元横綱が「なんか、少し見た目が変わった?」と話しかけ、格闘技挑戦を決めた経緯を聞く。まるで2人だけの時間が流れるように、ゆっくりと会話は進んだ。曙が「頑張れよ」と声をかけると、大砂嵐も6月に誕生したばかりの長男の写真を見せるなどして、すぐに打ち解けた。

 昨年4月12日、元横綱はプロレスの試合に出場するため福岡県内に滞在していたところ、朝に体調不良を訴え、北九州市内の病院に向かった。原因は「急性心不全」だったが「右脚蜂窩(ほうか)織炎」と「感染症」も重なり悪化の一途をたどった。関係者によると、一時は意識不明の状態だったという。

 だが一命を取り留め、昨年10月からはリハビリを開始して歩行練習などを行っている。まだ本調子には程遠く、会話にも時間がかかる状況だが、順調に回復へ向かっているのは確か。それを感じた大砂嵐が「治ったら、お酒を飲みに行きましょう。お酒は何が好きなんですか?」と聞くと、曙はニッコリうなずき「何でも飲んだよ。お酒なら何でも。今は飲めないけど」と答えて場を和ませた。わずか30分の対面だったが、大砂嵐にとって収穫は大きかった。

「会ったことはあったけど、長く話したのは初めてです。元気をもらえた。うれしいですよ。どんな体の調子なのか知らなかったので、最初はビックリしました。話したらすごくいい人で、お父さんみたいに感じました。外国人力士としての道を切り開いた方ですから。私よりもずっと厳しい相撲人生だったと思います。そんな方が今日『君は俺に似てる』と言ってくださったんです。メッチャ幸せだった」

 14年9か月前の元横綱の背中を追うように格闘技の世界に飛び込むが、何か吹っ切れたものがあった。「やっぱりレジェンド。私も、大砂嵐の名前を少しでも曙関に近づけられるように頑張りたい」と改めて決意した。今後は米ロサンゼルスで練習漬けの日々を送る予定。

 偉大な大先輩からの期待を胸に、デビュー戦に備える。