伊調馨 女子レスリング指導者育成中のイランで「イスラム公式練習着姿」初公開

2017年09月08日 16時00分

伊調(左)は「クラシック女子レスリング」の公式練習着を身にまとい指導(撮影=保高幸子通信員)

【イラン・テヘラン7日発=保高幸子通信員】リオデジャネイロ五輪レスリング女子58キロ級金メダリストで、女子史上初の五輪4連覇を達成した伊調馨(33=ALSOK)が、当地でレスリング指導に奮闘中だ。レスリング王国ながら、髪や肌を露出できないイスラム教の戒律により女子レスリングが行われなかったイランで競技の発展普及に協力。「郷に入っては郷に従え」で、イスラム女性向けの“新型”公式練習着を着用し、新たな挑戦に臨んでいる。

 最強女王が任されたのは、想像以上の大役だった。当初、現地でレスリングの初心者女性、約60人を指導すると伝えられていた。5日、現地に到着し、イラン男子代表の練習を見学後に同レスリング協会関係者と打ち合わせを行ったところ、打診されたのはなんと指導者の育成だった。

 イラン協会によれば今年、イスラム女性向けに肌や髪を覆う試合着を着用する「クラシック女子レスリング」が新種目として世界レスリング連合(UWW)に承認されたという。ルールは通常の女子レスリングと同じだが、伊調に託されたのはこの「クラシック女子レスリング」の指導者育成。集められた候補者68人は、すでにイラン各地で行われたトライアウトを経て選ばれた精鋭だ。中国武術や柔道、空手などの経験者が3グループに分けられ、伊調は各グループを3日間ずつ技術指導する。3日目にテストを行い、見込みのある人のみがコーチ候補に残る。

 レスリングは組み合う競技のため、イランでは女子選手の指導は女性しかできない。女性指導者育成は、今後の競技発展の行方を占う大事な要素だ。レスリング王国の“新規事業”の重大な役目とあって、当初は伊調も驚きを隠せなかった。しかし、イラン側は本気も本気。伊調もすぐに腹を決めた。

 自分で練習メニューを考えて指導を開始。イラン代表の練習拠点「レスリング・ハウス」の2号館で、午前午後それぞれ3時間、基本のステップや構えといった技術をみっちり教え込んでいる。

 海外での指導はこれが初めて。しかも、選手ではなく指導者のコーチになったが「(言葉の壁もあり)難しい部分もあるが、大事なポイントをいかに伝えられるか。初日一日でみんなレスリングっぽい動きになってきた。たった3日間でテストして、というのが寂しいです」(伊調)と熱が入っている。

 イラン女性同様、伊調も髪と肌を覆う公式練習着を着用した。五輪4連覇女王は世界でも女子レスリングの象徴。その伊調がイスラム女性向けの練習着を着用すれば、これまで閉ざされていた女性競技の発展、普及への影響は大きい。

「みんなコーチになりたくて一生懸命聞いてくれている。レスリングというものをちゃんと伝えたいと思う。やってみて難しいとか楽しい、面白い、と思ってくれるのが一番うれしいです」

 競技への姿勢同様、一切の妥協を許さず、海外での初指導に全精力を注いでいる。