かつての愛弟子に何を思うのか。空手の東京五輪組手女子61キロ超級代表の植草歩(28=JAL)が、全日本空手道連盟(全空連)前強化委員長で帝京大空手道部師範の香川政夫氏(65)からパワハラを受けたと告発したことを受け、植草の母校・帝京大は空手道部に関する調査報告書を10日に発表。「暴力的な指導にあたる行為は認められない」との見方を示した。約1か月半に及ぶ騒動にひと区切りがついたところで、電話直撃に応じた香川氏が胸中を激白した。

 ――ようやく騒動にひと区切りがついた

 香川氏(以下香川)何が原因で彼女(植草)がああいう行動を起こしたのか、何がどうなって問題になったのか結局は分からない。逆に、私は(植草が)誰に何を言われてこの騒動に発展したのかを聞きたいくらい。

 ――結局、竹刀が騒動の原因ではなかった

 香川 彼女はただ単に科学的なトレーニングをしたかったということだと思う。私にそれを話せば済むことなのに、なぜ訴えたのか。(植草の代理人弁護士は)竹刀が騒動の原因じゃないと言っていたみたいだが、それを持ち出したのは彼女側。科学的なトレーニングをしたいならはっきり言えばいいし、それを言えば「どうぞ好きなようにやってください」と返していた。

 ――2人の関係性に亀裂が入った理由は

 香川 基本的に彼女がいろんなトレーニングをしたいという好奇心が強いのは分かっていた。勝てなくなって、もがいているのも感じていた。誰もがスランプになったりすることはあるが、辛抱が足らなかった。私が指導する他の選手はスランプのときこそ、基本に立ち返って反復練習をやっていた。でも、彼女は地味な練習ができなかった。そういう考えが無駄だと思っていたみたい。地味な練習をするよりも、別のことをやる方が得策だと考えていた。私がそれ(基本練習の重要性)を彼女に言ったら「こんな練習なんて」と判断したのだと思う。

 ――植草の遅刻癖などを疑問視する声も

 香川 自分は特別だっていう感覚があったよね。自分は空手界の広告塔でやってきたという自負というか、何をしても許されるっていうおごりがあったんじゃないかな。だから平気で遅刻したり、集団行動をとらなかったりしていたのでは。今回も(4月の国際大会で)リスボン(ポルトガル)に行くときにピンクのシューズを履いて集まっていた。そんなの普通は考えられない。

 ――いつごろからそうなったのか

 香川 (空手が初めて)五輪種目に決まって、スポンサーがつきだしてからかな。スポンサーがついて、空手やスポンサーのイベントでもてはやされて、彼女がどんどん変わってしまった。そして、メディアに出る機会が増えて、勘違いした部分もあるよね。

 ――植草は周囲に騒動について説明していたか

 香川 ナショナルチーム(日本代表チーム)には、帝京大時代から稽古をともにしてきた女性の先輩、後輩が多くいるが、その子たちには一切相談をしていなかったみたい。今回はリスボンに行く前にホテルに集まった際、植草もあいさつをしたみたいだが「迷惑をかけてすみません」というだけで、詳細な説明はなかったらしい。でも、説明くらいあってもいいと思う。彼女が正しいと思ったら、正しいと説明すればいい。もし、全員の前で言いにくかったのであれば、昔からの仲間には、他の部屋でもどこでもいいから、説明する場を設けたほうがよかったのでは。そういうところの配慮が欠けていたのではないだろうか。

 ――最後に植草へメッセージを

 香川 今後どのような世界に行くか分からないが、空手の五輪代表選手としての自覚を持たないといけない。勝つことは大事だけど、それがすべてではない。今まで10年以上積んできた稽古で培った人間関係はすごく大事。一緒にやってきた仲間たちを思いやる気持ちを持たないといけない。勝てばいい、金メダルを取ればいいっていうものではない。空手界を代表する選手なので、少しは空手の道の心を身につけて、稽古に励んで、日本代表として成績を挙げてほしいよね。