【アツいアジアから旬ネタ直送 亜細亜スポーツ】ミャンマーで今、有名な日本人がいる。伝統格闘技「ラウェイ」の67キロ級ゴールデンベルト・チャンピオン金子大輝選手(25)だ。

 ラウェイはグローブなし、バンデージのみで殴り合い、頭突きや肘での攻撃もOKで「世界で最も過激」と言われる格闘技。現地で修業を重ね、権威ある国内4大会の一つで優勝した金子選手はこのほど、立ち技格闘技団体「K-1 JAPANグループ」と契約した。

 K-1ルールでは頭突きや肘打ち禁止だが、本人は「K-1スタイルでのトレーニングも重ねてきました。戦える自信はあります」と力強い。

 もともと器械体操選手だったが、肩を壊したこともあり格闘技に転向。ミャンマーでNPO活動をしていた人からラウェイを知った。

「ミャンマー人はラウェイのような激しい国民性かと思いましたが、全く真逆。優しくて礼儀正しい。試合会場で祖父からもらった時計を落としてしまい、盗まれることなく戻ってきたときは感激しました」

 ラウェイは日本の相撲のように、神に奉納する神事としての一面も強い。試合前には神に舞を捧げる。先日、世界遺産登録された仏教遺跡バガンの寺院にも、ラウェイ戦士の壁画が残されている。その歴史は1000年以上と言われ、タイの国技ムエタイの源流という説も。

 礼節が何より大事とされ、勝者はおごらず派手なガッツポーズもなく、敗者に駆け寄り介抱したりする。そんな独特の文化にほれ込んだ金子選手は、ミャンマー語を学び、現地に溶け込み技を磨いた。

 ただ現在、ラウェイは衰退の危機にある。

「経済発展でサッカーをはじめスポーツや娯楽の選択肢が増えたこと、国際社会に合わせグローブをつける新スタイルの普及などもあり、試合が組まれにくくなってきている」とは、最大都市ヤンゴン在住記者。

 そんな現状を打破するためにも、K-1参戦を決めた金子選手は「ラウェイの強さを証明し、ミャンマーの文化を広めたい」と意気込む。知名度の低い格闘技だが、K-1をきっかけに“旋風”を起こせれば、ミャンマーでのラウェイ復興にもつながるだろう。

 金子選手の日本での師匠は元プロボクサー関根悟史氏で、師直伝の鋭く力強いパンチが自慢。対戦したい相手は、第5代K-1クラッシュファイト・ライト級王者で、「ムエタイ大魔神」の異名をもつ人気タイ人選手ゴンナパー・ウィラサクレック(26)だという。(室橋裕和)

☆むろはし・ひろかず 1974年生まれ。週刊文春記者を経てタイ・バンコクに10年居住。現地日本語情報誌でデスクを務め、2014年に東京へ拠点を移したアジア専門ライター。最新著書は「日本の異国」(晶文社)