WBA世界ミドル級タイトルマッチ(15日、横浜アリーナ)、王者の村田諒太(32=帝拳)は同級6位のエマヌエーレ・ブランダムラ(38=イタリア)を8回2分56秒、TKOで破り、初防衛に成功した。日本選手がミドル級の世界王座防衛を果たしたのは初めて。ボクシング人生の集大成として掲げるミドル級3団体統一王者ゲンナジー・ゴロフキン(36=カザフスタン)との対戦に向けて好スタートを切ったが、ここまでの道のりで心は大きく揺れた。そんな村田がたどり着いた“悟りの境地”とは――。

 一撃で決めた。8回終了間際、村田の右ストレートがアゴにヒットすると、ブランダムラは崩れ落ちる。おぼつかない足元で立ち上がろうとしたものの、レフェリーがカウントを続ける途中でセコンドが棄権を申し入れて試合終了。ゴングが鳴り響き、村田がTKOで初防衛を果たした。

「無意識の中で(KOしたいという)焦りがあったのかもしれません。普段だったらこんなに左フックもらわないですし。何かわからないけど難しい」と試合後の村田は反省しきりだったのに対し、帝拳ジムの本田明彦会長(70)は「やりにくい相手を最後はよく倒したと思う」と、27勝のうち22勝が判定という“試合巧者”を仕留めきったことを評価した。

 前日14日には「MGMリゾーツ」との契約が発表され、秋に見込まれるV2戦はラスベガスの「MGMグランド」で開催されることが既定路線。さらにその先には中量級最大のスターで、WBAスーパーとIBF&WBCミドル級3団体統一王者のゴロフキンとの対戦も見えてきた。

 世界のトップステージへつながる階段を本格的に上り始めた村田だが、重圧に押し潰されそうになっていた時期があった。昨年10月に世界王者となったアッサン・エンダム(34=フランス)戦の前のことだ。

 5月に行われた初対戦の王座決定戦では、ダウンを奪いながらも不可解な判定負け。WBA会長までもが採点に異議を唱えた経緯があってのダイレクト・リマッチには「今度は勝って当たり前」という雰囲気が漂い、そのことがすさまじいプレッシャーとなって襲いかかった。

 そんな苦しい日々が続いたが、ある時、ボクシングを達観できる瞬間があった。

「もしかしたら次の試合で負けて、ボクシングをやめることになるかもしれない。もし、そうなったら今日のこの練習、試合○日前という状況の練習は最後のものになるかもしれない。そう考えたら怖いものなんてない。毎日の練習を大切にしようと思えるようになったんです」

 次々戦でゴロフキン戦となるとV3戦。世界的に「時期尚早」との声も上がるかもしれないが、32歳の村田には“回り道”している時間はない。

「この先は無駄な試合なんて一つもしたくない」と村田が言えば、本田会長も「太く短く」と同調する。次のV2戦もゴロフキン戦を見据えての前哨戦となるような相手ではなく、引退と隣り合わせの強敵とやることになるのは必至だ。

 だがそれは他でもない村田自身が望むこと。襲いかかる重圧も、ボクシング人生の集大成に向けてまい進しているからこそ、と思えば心地よくなった。そんな悟りに近い境地が村田の強さを支えている。

「今のままではゴロフキンに勝てる気はしない。もっといい試合ができるようにしたい」。今後も練習での一分一秒すら無駄にせず、自分を高めていく。

★年内に東京ドームの青写真=帝拳ジムとともに村田をプロモートするトップランク社のボブ・アラムCEO(86)は「素晴らしいKOでの勝利だった」と話し、昨年10月同様に勝利後はリングに上がって祝福した。

 次戦については「ラスベガスのMGMで、ムラタの試合がメインイベントになる」と話すとともに「セミでは日本人の素晴らしいファイターを挑戦させるようにしたい」とのプランも披露した。

 さらにゴロフキン戦の見通しについては「ムラタには体格のアドバンテージがある」とした上で「早ければ年内に東京ドームでやりたい。日本時間の日曜日の昼間。米国では土曜夜のプライムタイムになる時間でやりたい。そうすれば『ペイ・パー・ビュー』としてもビッグビジネスになるはずだ」と具体的な青写真を描いている。