「神の左」が意外な形で第2の人生のスタートを切ることになった。元WBC世界バンタム級王者の山中慎介(35=帝拳)が26日、都内で現役引退を正式に発表した。必殺の左ストレートを武器に世界王座連続防衛記録で国内歴代2位のV12を達成した日本ボクシング史に残る名王者は、水面下では着々と今後の準備を進めている。スポーツキャスターや解説者として活躍するため、まずは著名な“アナウンサー予備校”へ入校予定だというから驚きだ。

 1日のWBC世界バンタム級タイトルマッチで、体重超過で王座剥奪となったルイス・ネリ(23=メキシコ)に2回TKO負け。世界中に波紋を呼んだ一戦から25日後、約150人の報道陣が集まった引退会見には、高校とジムの後輩でもあるWBA世界ミドル級王者の村田諒太(32)も駆けつけた。最後は最愛の家族、豪祐くん(5)と梨理乃ちゃん(4)の2人に「パパ、卒業おめでとう」の言葉をかけられ、約20年のボクシング人生にピリオドを打った。

「一番成長させてもらった、人生そのもの。山中慎介イコールボクシングでしょう」という山中は、気になる今後については「家族と相談してゆっくり決めていきたい。具体的には決めてないけど、今までの経験を生かしていきたいと思う」と話すにとどめた。

 そうしたなか、第2の人生に向けた準備を着々と進めていることが本紙の取材で明らかになった。「今までの経験を生かす」とはスポーツキャスターなどの仕事。それに向けて、現役時代の試合を中継し続けてきた日本テレビのアナウンススクールに入校することになっている。

 キャリア27勝のうちKOは19回。世界戦に限ると13勝で9KOとリングでは圧倒的な強さを誇った「神の左」だが、取材での受け答えなどでは関西人(滋賀県出身)らしく絶妙なボケを披露してきた。この日の会見でも自身のスタイルについて「歴代の世界王者でもトップクラスの“引き出し”の少なさだと思う」と表現して報道陣を笑わせた。その一方で、「仕事」として話をすることには自信を持てていないという。

 とはいえ、これまでの功績と知名度からいって、スポーツキャスターとして即デビューを果たしてもおかしくない。山中をプロデビューからフォローし続けてきた日本テレビとしても、2020年東京五輪へ向けて活躍の場を提供しようというわけだが、安易な転身で視聴者に聞きづらさを感じさせるような中途半端な仕事をすることは名王者のプライドが許さない。そこで現役やOB&OGアナが厳しい指導をすることで知られる「日テレ学院」のアナウンススクールに入り、「しゃべり」の基本を一から勉強することになったのだ。

 同スクールの卒業生にはNHK「ニュース7」の顔でもある鈴木奈穂子アナ(36)ら各局のアナウンサーだけでなく、サッカー元日本代表FW武田修宏氏(50=本紙評論家)やサッカー解説者として活躍する中西哲生氏(48)といったアスリート出身者もおり、指導のノウハウもある。山中にはうってつけの環境と言える。

「同級生の後援会員が名づけてくれて、最初は『大げさやろ』と思いましたけど、左で結果を出し続けたので、それに恥じない試合はできたと思います」(山中)と振り返る「神の左」を武器に世界戦で奪ったダウンは通算30回。第2の人生ではこれに負けない切れ味鋭いコメントでお茶の間を沸かせてほしいものだ。