山中慎介に王者復帰の可能性 ネリ薬物陽性で迷える去就

2017年08月25日 16時30分

 ボクシングのWBCは23日(日本時間24日)、15日の世界バンタム級タイトルマッチ(京都)で山中慎介(34=帝拳)を破って新王者となったルイス・ネリ(22=メキシコ)が試合前に行ったドーピング検査で、禁止薬物に陽性反応を示したと公式サイトで発表した。違反が認められればタイトル戦は無効試合となり、山中の復権の可能性にも注目が集まるが、気になるのは今回の発覚のタイミングと山中サイドの動向。いったいネリに何が起こったのか。そして、山中の“再起”はあるのか。騒動の背景と今後に迫った。

 山中が歴代最多タイ記録の世界王座13連続防衛に失敗してからわずか9日後、事態は思わぬ方向に進み始めた。WBCは山中を倒して新王者となったネリが7月27日に行ったドーピング検査で禁止薬物ジルパテロールに陽性反応を示したことを発表。筋肉増強剤クレンブテロールに似た性質を持つもので、WBCは調査を進める意向を示している。

 すでに日本ボクシングコミッション(JBC)にも連絡があり、B検体や試合後に採取した検体の検査結果を受けてWBCと対応を協議する方針だ。結果が“クロ”ならネリの王座剥奪と山中戦の無効試合という裁定が下されるのは確実。過去には、2015年のWBO世界ライト級王座決定戦が、粟生隆寛(33=帝拳)に勝ったレイムンド・ベルトラン(36=メキシコ)のドーピング違反により無効試合となった例がある。

 今後は山中の防衛記録の扱いが注目されるが、帝拳の本田明彦会長は24日「WBCとJBCの決定を待つだけ」としながら、王座剥奪や無効試合になっても山中に王座が戻ることはない、との見解を示した。その上で、王座決定戦が行われる場合は優先的に出場の権利が与えられるとみている。

 だが、事態はそう簡単に運びそうにない。そもそも、まだネリはドーピング違反と認定されたわけではなく“シロ”となる可能性がある。ネリ陣営は故意の薬物摂取を否定。ジルパテロールには牛など家畜のサイズを大きくする作用があり、食肉に含まれていることもある。悪質性が認められない場合は不問に付されることも考えられる。

 無効試合になり、山中に再びチャンスが訪れる展開になったとしても、山中が闘志を再び燃やせるかというのが最大の問題。ネリ戦は「まだいけると思っていた」という山中自身の手応えとは対照的に、連打を許してロープに詰められたシーンは“限界”と受け取られかねないものだった。山中は敗戦後「もう少し考えさせてください」と進退については保留しているが、実際、山中に近い関係者は「引退する可能性が高いと思う」と証言している(本紙既報)。

 しかも、ネリがドーピング違反と認定されれば長期出場停止処分となるため、山中が望む「ネリとの再戦」の道は事実上断たれる。王座決定戦で別の相手と戦うことをモチベーションにできない以上、リングに再び上がる価値を見いだせないだろう。周囲の説得やスポンサーサイド、山中の世界戦を中継してきた日本テレビなどが復帰に向けて後押しすることも予想できるが、山中の心が動くことは考えにくい。

「プロ初の敗戦」という戦績はネリの処分次第で消えるかもしれない。世界戦12連続防衛という輝かしい記録も色あせることはない。ただ、ボクシング人生を懸けた一戦が「ドーピング問題」で振り回されることになったのはあまりにも残念だ。

【反ドーピングへWBC強い姿勢】

 試合から10日足らずでの衝撃の発表には、WBCの「アンチドーピング」に向けた姿勢が強くうかがえる。

 WBCは昨年から「クリーン・ボクシング・プログラム」を促進し、全階級の王者とランキング上位15人を対象に抜き打ちでドーピング検査を行っている。これにより、タイトルマッチのリングに上がることを禁止された選手や、試合後に出場停止処分を受けた選手がいる。

 前WBCスーパーフェザー級王者のフランシスコ・バルガス(32=メキシコ)は昨年4月の防衛戦の前にクレンブテロールが検出されたが、プロモーターが「メキシコで食べた肉に混入していた可能性が高い」との声明を発表。バルガスも検査に積極的な姿勢を見せたことで、WBCが防衛戦の実施を許可したというケースもあった。