5月20日に行われたボクシングのWBAミドル級王座決定戦で不可解な判定で敗れたロンドン五輪金メダリストの村田諒太(31=帝拳)が、10月22日に東京・両国国技館で王者のアッサン・エンダム(33=フランス)と再戦すると3日、所属ジムが発表した。ジャッジへの不信感や巨額の費用の問題などで再戦には否定的だった村田陣営だが、ここへきて方針を転換。困難と思われた再戦はなぜ実現に至ったのか。その舞台裏に迫った。

 日本ボクシング史上に残る“世紀の誤審”から約2か月。村田は、この会見のためにフランスからわざわざ来日したエンダムと再び会見場で顔を合わせ「リングの上でベストを尽くすだけ。この前の試合で(試合内容を)評価していただいた。唯一、手元にないのはベルト。それを持って帰ります」と王座奪取を宣言した。

 5月20日の同級王座決定戦は村田が4回にダウンを奪うなど終始主導権を握っていたかに見えたが、判定は1―2でまさかの敗戦だった。WBAのヒルベルト・ヘスス・メンドサ会長が不可解判定に謝罪の意を示し、すぐに再戦指示を出したが、プロモーターでもある帝拳の本田明彦会長(69)は「やらない」と断言。村田陣営は疑惑判定を生み出すWBAの体制に不信感を抱いたことに加え、ミドル級戦線では試合開催に10億円近い費用がかかることもあり、簡単に再戦を口にできる状況ではなかった。

 それが、なぜ再戦にかじが切られたのか。5月の試合は関東地区で平均視聴率が17・8%、瞬間最高で23・2%を記録。これは中継局のフジテレビが今年放送したすべての番組の中で、映画「アナと雪の女王」「世界フィギュア選手権」に続いて3番目に高い数字となった(視聴率はすべてビデオリサーチ社調べ)。

 ただでさえ五輪金メダリストの世界挑戦に対する注目度は高かったが、今回の誤審騒動で村田への関心はさらにアップした。こうしたことから、フジテレビなどは次の世界戦に必要な経費を賄うだけのスポンサー集めができると判断。これを受けて村田陣営も再戦にGOサインを出した。因縁の再戦となれば間違いなく盛り上がるが、半年以上も間隔が空いてしまうと、人々の記憶も薄れる。その意味からも10月という日程はギリギリの線だった。

 この先の世界のミドル級戦線は「9・16」を軸に動く。この日は米国ラスベガスでWBC、IBF、WBAスーパー王者のゲンナジー・ゴロフキン(35=カザフスタン)とサウル・アルバレス(26=米国)とのメガファイトだけでなく、WBO王者のビリー・ジョー・サンダース(27=英国)の防衛戦もロンドンで行われる。

 サンダースは当初、7月8日に試合が予定されていたが、対戦相手が逮捕され、中止になった。その代替試合を9月16日に持ってくることで、時差の関係でゴロフキン―アルバレス戦より約半日早くゴングとなる試合でアピールできる。さらにはこの一戦の勝者との対戦交渉でも試合間隔が同じになることを強調でき、スムーズなマッチメークをする狙いがあると思われる。

 村田としても当然、WBA王者となってこの戦線に絡みたいところ。そのためにも「9・16」とできるだけ近いタイミングで試合をやりたかったというわけだ。

 村田は「ファンが望むのは、確かに完全決着。それができれば、僕は一つ上のステージに行って、また大きな試合が待っていると思う。やはり上を目指すボクサーとしてファンが望むような形を、と思っている」とKO勝ちに意欲を見せた。五輪金メダリストの世界王座奪取という日本史上初の快挙だけでなく、その先のビッグマッチに向けて村田が再び動きだす。