WBO世界スーパーフライ級王者の“怪物”井上尚弥(24=大橋)が25日、9月9日(日本時間10日)に米カリフォルニア州カーソンで行われるV6戦に向けた走り込みキャンプを静岡・熱海市で開始した。初日から超ハードなメニューをこなして米国進出への意気込みを見せたが、現地では未体験の“本場の洗礼”が待っている。怪物はその対応力が問われることになりそうだ。

 夜明けとともに海水浴客が来る前のビーチを走り、午後は山中の急な階段を駆け上がる過酷なメニュー。井上は「キャンプに来ると、試合が近づいてきたなという感じになります」と話し「内容が厳しくなっていて、初日からこんなにキツいのは初めて。明日からどんなふうになるのかが不安です」とも漏らした。それでも「キツいけど、アメリカでの試合があると思うからがんばれる」と気合を込めて語った。

 同級7位のアントニオ・ニエベス(30=米国)を迎え撃つV6戦については「ワクワクと楽しみでいっぱい」と表現したが、関係者からは「試合前になると、いろいろなことで戸惑うと思う」との声が上がっている。

 試合が行われる「スタブハブ・センター」は屋外のテニスコート。リングの上には仮設の屋根が設置されるので、さすがに雨で濡れることはない。井上も「アマチュア時代を含めて屋外でやるのは初めて。試合は夜だから、あまり違いを感じることはないかもしれないけど」と話すが、本場で待つ“難関”は別のところにもある。

 興行の段取りが大きく異なり、日本では試合の1週間から10日前にやることが多い「公開練習」は、試合3日前に行われる見通しになっている。その内容も、興行に出場する主力級が勢揃いし、メディアに顔見せをする。15日に米国でWBC世界スーパーフェザー級タイトルマッチを戦った三浦隆司(33=帝拳)もこのパターンで、本場ではこれが一般的だ。

 さらにテレビ局の意向がスケジュールに大きく反映される。三浦の場合は昼に前日計量を終えた後も、インタビュー用のスタジオがあるホテルで夕方まで拘束された。選手によっては当日も試合前のインタビューなどに備えて、ゴング4~5時間前の会場入りを要求されるケースも。ノンタイトル戦では、当日の進行状況によってラウンド数が直前に変わることすらあるのだ。

 こうした違いは予備知識としてはあるかもしれないが、実際に目にしたり、その場にならないとわからないことも多い。井上は15日に米ロサンゼルスで行われた興行の発表会見には「急に決まったらしいので」との理由で参加しなかった。同日には近隣で三浦の試合もあっただけに、米国ならではの「段取り」を見ておいたほうがよかったのでは…という声もある。

 もっとも本場で成功するためにはこんなことでつまずいてはいられない。まずはリング外の難関をクリアしてド派手なKOを見せたいところだ。