WBC世界バンタム級タイトルマッチ(16日、エディオンアリーナ大阪)は、王者の山中慎介(33=帝拳)が同級1位の難敵アンセルモ・モレノ(31=パナマ)を7回1分9秒、TKOで破り11度目の防衛に成功した。これで連続防衛記録は国内歴代2位タイに。元WBAライトフライ級王者・具志堅用高氏(61)の持つ日本記録V13の更新がいよいよ射程圏に入り、今後の防衛ロードには東京ドーム開催プランが浮上している。「神の左」がさらにスケールアップしそうだ。

 まさに大激闘だった。先に仕掛けたのはモレノで1回、ジャブを的確にヒットさせてくる。山中は左フックでダウンさせたが、4回にはモレノが右フックでダウンを奪い返した。5回にもモレノの右が飛んで、王者がダウン寸前となるシーンもあった。

 白熱の攻防は、6回に山中が強烈な左で2度目のダウンを奪う。最後も必殺の「神の左」で仕留めた。7回、すでに3度目のダウンを喫していたモレノに、王者の左ストレートが命中だ。レフェリーはカウントせずにTKOを宣告。1年前のV9戦では2―1の判定勝ちと大苦戦した宿敵に、見事“リベンジ”を果たした。

 山中は「残酷な言い方だけど(モレノの倒れ方が)気持ちよかった。前回苦戦して危ないかな、と思っていた方も多かったかもしれませんが、倒してやりました」と満足げな表情。今後はいよいよ近づいてきた「具志堅超え」への期待が高まるが、同時に王者には「会場探し」という意外な“強敵”が立ちはだかる。

 この日、会場のエディオンアリーナ大阪に集まった観衆は6500人。2014年4月にこの日と同じ山中&長谷川穂積(35=真正)のW世界戦を開催した際には大阪城ホールが1万6000人で満員になっており、今回も同規模の集客が見込めたが、他の会場に全く空きがなかったという。

 20年東京五輪へ向けて首都圏では今年に入ってさいたまスーパーアリーナや横浜アリーナが改修を終えた。今後も日本武道館や代々木第一体育館で改修を予定しており、会場不足は深刻。コンサートなどの大規模イベントは1年前に会場を押さえることがザラだが、ボクシング興行が半年以上前に決まることはまずなく、会場探しは常に苦労がつきまとう。

 そこで候補に挙がっているのが東京ドームだ。東京ドームでのボクシング興行は、当時の統一ヘビー級王者マイク・タイソンをメーンに1988年3月と90年2月の2回行われている。

 この日の興行のプロモーターでもある帝拳ジムの本田明彦会長(69)は「タイソン以来となれば、大きな話題になるじゃないですか」と話す。開催へ向けて、すでにドームイベントのシミュレーションを開始。タイソン戦の際には5万人の観客を集めたが、今度は仮設スタンドを作るなどして2万~3万人の規模にし、より見やすい環境にするという。

 さらに、本田会長は「いろいろな選手を出して『ボクシングのお祭り』にすればいい」と提案。現在のボクシング興行は関係するテレビ局ごとの開催になっているが、この慣例をブチ破るという。WBO世界スーパーフライ級王者の井上尚弥(23=大橋)やミドル級の村田諒太(30=帝拳)らのビッグネームも一堂に会して、文字通りの「オールスター戦」ができれば…との壮大な青写真もある。

 もちろん、その中心は36年間破られていない連続防衛の日本記録更新が迫ってきた山中だ。本田会長は山中の今後の対戦相手について具体的な名前こそ挙げなかったが「ただ試合をやって勝てばいい、という時代じゃない」とさらなる話題を呼ぶマッチメークを行っていくことを予告した。この日の山中のV11戦には「今年のベストバウト」との声も上がる。これを機に四半世紀ぶりの東京ドーム開催を実現させて、ボクシング界が変わる時かもしれない。