WBA世界スーパーフェザー級タイトルマッチ(27日、東京・大田区総合体育館)で同級スーパー王者の内山高志(36=ワタナベ)は、同級暫定王者のジェスレル・コラレス(24=パナマ)に2回2分59秒でまさかのKO負け。12度目の防衛に失敗した。「KOダイナマイト」が喫したプロ初黒星には日本中の格闘技ファンが声を失ったが、一体なぜ負けたのか? ワタナベジムの渡辺均会長(66)は敗因を陣営の「慢心」だと指摘。衝撃の敗戦の舞台裏を探った。

 まさかの瞬間だった。2回終了まであと1秒。左フックを食らった内山は尻もちをつき3度目のダウンを喫した。この時点で「3ノックダウン」のルールにより、KO負け。2010年1月から続いていた長期政権がついに終わりを告げた。

「インビジブル」(見えない)の異名を取るコラレスのパンチは「やりづらい距離」(内山)と1回から防戦一方だった。2回序盤に「見えてなかった」と左でダウンを食らうと、ダメージが残る。2度目のダウンはスリップ気味だったが、劣勢は明らか。暫定王者の左に全く対応できないまま終了のゴングを聞いた。

 テレビ中継のゲスト解説を務めたWBC世界バンタム級王者の山中慎介(33=帝拳)は「一発いいのをもらって、やり返したいと思って前に出たところをやられてしまった」。内山が1回にポイントを失ったのは初めて。意地と焦りが負の連鎖となり、世界戦で10KOという「倒し屋」の性(さが)がアダになったという。

 一方、渡辺会長は敗因を陣営の「慢心」と言い切った。「決して内山本人に油断があったわけではない」とした上で「スタッフとの作戦会議にもっと、倍ぐらいの時間をかけて準備するべきだった。コラレスはやったことのないタイプの選手。もっと(連係を)密にしていれば…」と嘆いた。

 ワタナベジムの選手は、それぞれにトレーナーがつくため、会長が直接選手を指導することはほとんどない。その分、相手のビデオを見たり、情報収集を基にした会長とトレーナー陣との作戦会議を頻繁に行う。だが、渡辺会長は4月に入り、日本プロボクシング協会の会長を兼務することになった。これで一気に多忙となり、スタッフとの交流は激減した。こうした事前の準備不足がコラレスの強烈な左パンチを“死角”にしてしまったのかもしれない。

 マッチメークにも油断の“布石”があった。当初の対戦予定は前WBA世界フェザー級スーパー王者ニコラス・ウォータース(30=ジャマイカ)だった。その後、WBAからスーパーフェザー級正規王者ハビエル・フォルトゥナ(26=ドミニカ共和国)との対戦指令が出て交渉したが、これは決裂。結局は格下の暫定王者コラレスとの「統一戦」となり、渡辺会長は「負けるはずがない、という気持ちが私たちにもあった」。内山自身も度重なる対戦相手変更で「モチベーションが下がった部分はある」と話しており、少なからず影響があっただろう。

 さらに「勝って当然」のムードも蔓延した。陣営は夏~秋にもV13戦を開催し具志堅用高氏(60)の持つ世界王座連続防衛の日本記録に並び、大みそかに新記録樹立のシナリオを描いていた。この日のトリプル世界戦のポスターにも「ツー・モア(あと2勝)」の文字が踊った。内山サイドに大きな「隙」があったことは否定できない。

 内山は今後について「何も考えてない」と話したが、渡辺会長は「この敗戦で負った心の傷はそう簡単に癒えるものじゃない。まずは1年ぐらいゆっくりさせる。その後で『どうしても、またやりたい』となって、体力的に問題がなければ再起。引退となれば、それを尊重する」としばらくは見守る方針だ。

 世界王座に6年超の在位期間は国内最長。希代の名王者は、今後どのような道を選ぶのか。