これがモンスターの美学だ。世界バンタム級3団体統一王者の井上尚弥(29=大橋)が28日、神奈川・横浜の同ジムで公開練習を行い、自身の勝負論を口にした。

 この日はシャドー、サンドバッグ、ミット打ちなど軽めの練習。約40分間、汗を流した後に取材対応した。集まったメディアから「ライバル」の存在について問われると、こんな見解を示した。

「圧勝しちゃうから、ライバルにならないですよね。それは僕が欲しても、どうこうなる問題じゃないので。例えばスーパーバンタム級に上げて(WBC&WBO王者の)スティーブ・フルトンとやる。いい勝負をすればライバルになるけど、また圧勝したらライバルではなくなる。だから、これって難しくないですか」

 7日の3団体統一戦で圧勝したノニト・ドネア(フィリピン)に関しては「1戦目でこの前(2戦目)みたいな試合結果であれば、もうドネアはライバルになっていないんですよ。あれ(1戦目)はいい戦いをして判定までいったから、ドネア2が盛り上がったわけで」と説明した。

 孤高の存在になりつつあるモンスター。常に周囲が望むKO決着にこだわってきたが、果たして勝利だけにフォーカスしたらどうなのか? そう問いかけると…。

「お客さんやファンの目線を無視して、ただ勝てばいいって試合をすれば楽ですよ。やっぱり、リスクを冒す戦い方をしないので。要はつまらない試合で、ポイントを稼いで判定勝ちならいくらでもできますね」

 もちろん、今はその選択は頭にない。井上は「プロとして、それは自分のスタイルじゃない」と言い切り、ファンの期待値が上がり続ける現状にも「それが自分のモチベーションとなり、パフォーマンスにつながる」とポリシーは揺るがない。

 しかし、バンタム級で4団体統一を果たし、将来的に階級を上げれば事情も変わる。倒して勝つスタイルについて「スーパーバンタムでは変えないと思います」と言うが、その先はどうなのか?

「今はフェザーのことは考えてないですけど、フェザーにいったら戦い方を変えますよ。そこは階級制のスポーツですし、体格差は必ず出てくる問題なので。そこをいかに対応して戦えるかが問題になってくる」

 すでに井上はスーパーバンタム級を「ベストな階級」と位置づけており、フェザー級も時間の問題。「自分はゴリゴリのファイターじゃないので。打たせないで打つのが自分のスタイル」。さらに上の階級にいったモンスターが、戦い方を180度変えて躍動する「夢」も見てみたい。