古今東西、ボクサーの異名は枚挙にいとまがない。現在ではWBAスーパー&IBF世界バンタム級統一王者・井上尚弥(大橋)の「モンスター」があまりにも有名だが、元WBA世界ライト級王者ロベルト・デュラン(パナマ)の「石の拳」、元世界3階級制覇王者の亀田興毅氏の「浪速の闘拳」などボクサーにちなんで「拳」を異名につけるケースは多い。

 先月9日、デビュー以来23連勝を飾ったWBO世界フライ級王者の中谷潤人(24=M・T)もその一人だ。2度目の防衛を果たした歓喜のリング上では「ネクスト・モンスター」と井上にあやかったニックネームが紹介されたが、本人がデビューから大切にしているのは「愛の拳士」。ボクサーの異名は荒々しく、いかついものが多いが、なぜ「愛」の文字を使用しているのか。

「デビューした時から皆さんの応援を受け、その気持ちをボクシングで恩返しするという意味が込められているんです」

 名付け親は母・府見子さん、父・澄人さんが地元・三重で経営していた飲食店の常連客。小学3年で空手を始め、中学1年生でボクシングの世界に入ってから今に至るまで、常に周囲の温かいサポートに助けられてきた。そんな環境もあり、中谷は成長する中で自然と「感謝」の気持ちを大切にするようになった。

 インタビューや囲み取材では必ず冒頭と締めに「周囲への感謝」と口にする。リングを降りれば格闘家とは思えぬ柔和な表情で、物腰も柔らかい。そのため中谷の周囲は常に笑顔があふれ、愛に包まれるようになった。

 今後はV3戦や階級アップなどを視野に入れ、米ロサンゼルスへ渡る予定。パウンド・フォー・パウンド(PFP=階級を超越した最強選手)のランク入りへ向け、これからも「愛」をもって自らの「拳」を磨いていく。