〝異例マッチ〟が残した教訓とは――。WBO世界ミニマム級タイトルマッチ(22日、東京・後楽園ホール)で王者の谷口将隆(28=ワタナベ)が挑戦者の石沢開(25=M・T)を11ラウンド(R)TKOで下し、初防衛を果たした。前日計量で石沢が体重超過となり、当日計量で何とかクリア。結果的に事故なく終わったが、日本で初めて主要4団体すべての世界王座を獲得した高山勝成(38=寝屋川石田)は最軽量級の減量の過酷さを指摘しつつ、今回の一戦の危険性を訴えた。

 極めて異例の〝変則マッチ〟だった。前日計量で体重超過のミスを犯した石沢は当日計量をリミットギリギリの50・6キロでクリアして試合成立。仮に中止なら興行面で大打撃を受けていただけに、関係者も胸をなで下ろした。

 しかし、谷口にとっては前日計量の時点で2階級上のフライ級に相当する相手。身の危険を感じつつ、敗れたら王座陥落(空位)というリスクを背負ってリングに立った。それでも中盤からアッパー、ボディーを織り交ぜて攻め込むと、11Rに左フックを石沢の顔面に入れてレフェリーストップで試合を決めた。

 谷口はリング上で謝罪する石沢に対して「もうこれからは謝らなくていいよ」「すごく反省したと思う。失敗は誰にでもある」「いろいろあったけどノーサイド」と気遣いを見せる一方で「ボクサーの1キロは大きい」と危険と隣り合わせの一戦を振り返った。

 今回の試合について、元WBO世界ミニマム級王者でもある高山は自身の経験から警鐘を鳴らす。最軽量級の減量について「他の階級に比べて体の面積や基礎代謝も違う。重量級はウオーキングで500グラムくらい落ちますが、ミニマム級だと水分も極限まで削っているので、まるで干物のような状態」と実情を語った上で〝アンフェア〟な一戦の危険性を指摘した。

「選手目線で言うと非常に危ない試合ですよ。体重が少ない谷口君はもちろん、石沢君もリカバリーをしっかりできていない可能性があり、その状態で限界を超えた戦いをする。もし僕が谷口君の立場なら、後援者やスポンサーにどう説得されようが『試合はやりません』と断っていましたね」

 チケットやスポンサーなど〝大人の事情〟は重々承知。それでも高山が試合拒否するのは「何かがあってからじゃ遅いし、命がかかっている」という理由だ。

「リングで自分の身を守るのは自分でしかない。セコンドはタオルは投げるけど、命は守ってくれない。だから周りに振り回されず、自分を貫かないといけないんです」

 今回の計量問題に限らず、命を削るボクサーは時として鉄の意志を持つべきというのが髙山の考えだ。2014年8月、メキシコでフランシスコ・ロドリゲス・ジュニアと王座統一戦を行った際に「ゴングが鳴るまでにファイトマネーを受け取れないと試合はやらない」と主張。バンテージを巻いている時にようやく現金を受け取ったが「もし支払われなかったら絶対に帰国する覚悟でした」と振り返った。

 試合は無事に終わったとはいえ「終わりよければ…」で片づけるわけにはいかない。今後に大事故を起こさないためにも、元王者の指摘に耳を傾ける必要がありそうだ。