WBO世界ミニマム級王座決定戦(30日、愛知・パークアリーナ小牧)は同級2位田中恒成(19=畑中)が3―0の判定で同1位フリアン・イエドラス(27=メキシコ)を破り、国内最速記録を更新する5試合目での世界王座獲得に成功した。とはいえ、この試合はテレビ放送されなかった地域も多く、全国レベルでの注目度は決して高くなかった。田中が“真の王者”と認知されるための条件とは――。

 王座決定戦では、何度か倒すチャンスがありながら最後まで仕留められず。約10キロの減量の影響で失速し、ヒヤリとさせるシーンもあった。一夜明けた31日、田中は「まだ実感は湧かない。多分、ずっとこのままなのかなぁ、と思います」とクールに話した。

 5戦目での世界戴冠は、昨年4月に井上尚弥(22=大橋)がWBCライトフライ級を獲得した6戦目を抜いて国内の最速記録を更新。ところが、試合を中継したのは地元名古屋のCBCと東京のTBSのみで、関西などでは放送されなかった。王者としての認知度と全国的な知名度はまだまだという面は否めない。

 世界のボクシング界では「最速」「防衛回数」といった「記録」よりも「誰と誰が戦うか」が重要視される。5月2日に行われたフロイド・メイウェザー(38=米国)対マニー・パッキャオ(36=フィリピン)戦が史上最大の興行規模になったのは、その最たる例だ。では、19歳の若き王者が“真の王者”と認知されるためには「誰」と戦えばいいのか。

 田中は今後について「毎回必死になるような強い選手とやりたい。見ている人が『こんなに強いのとやって大丈夫なの?』とハラハラするような試合がしたいですね」と語る。となれば、日本で初めて主要4団体の世界王座を獲得したIBFミニマム級王者・高山勝成(32=仲里)との統一戦は避けては通れない。

 田中の世界戦をテレビ解説した高山は、その後会見場に“乱入”までして対戦をアピールするなどやる気満々。畑中ジムの畑中清詞会長(48)は「お互いにやりたい」と話す一方で「うちはWBOの、高山はIBFの指名試合をやる必要がある」ことがクリアすべきハードルだと説明した。

 世界戦の立会人を務めたWBOのレオン・パノンシーロ氏(米国)も「タナカは180日以内に指名試合をする必要がある」ことが基本だとしながらも「もしタカヤマと(統一戦を)やるなら、それはプロモーター同士のビジネスだ」と本紙に語った。交渉や根回しをしっかりやれば、実現の可能性は十分にある。

 田中はひと回り年上の高山に「僕がプロデビューする前から世界王者だったし、スパーリングの相手もしてもらって尊敬している人」と最大級の敬意を払いつつも「試合となれば、気持ちを切り替えてやりますよ」と逃げるつもりはない。

 これまで国内最速記録を打ち立てた“先人”たちは、その後も強敵を相手に実績を残している。井上は昨年12月に世界最速で2階級制覇を達成、7戦目で奪取の井岡一翔(26=井岡)は3階級制覇に成功した。最速記録はゴールではない。大事なのは、これからのマッチメークだ。