フロイド・メイウェザー(38=米国)とマニー・パッキャオ(36=フィリピン)のボクシング“世紀の一戦”が、予想もしなかった波紋を呼んでいる。負けたパッキャオが試合後に右肩のケガを告白したことから、一部のチケット購入者などが「金返せ!!」と激怒。パッキャオ側を相手取り、約6億円の賠償金を求める集団訴訟を起こしたのだ。さらにカンボジアではパッキャオ勝利に賭けていたフン・セン首相が試合結果を不服とし、賭け金5000ドル(約60万円)の支払いを拒否するなど、思わぬ場外戦となっている。

 現地時間2日に、米ラスベガスで行われたプロボクシング世界ウエルター級王座統一戦は、5階級制覇のWBC&WBA世界王者のメイウェザーが、6階級制覇のWBO王者パッキャオを3―0の判定で下した。

 フルラウンドの熱闘は後味が悪かった。パッキャオが3週間前のトレーニングキャンプ中に右肩を負傷していたことを試合後に告白。「試合の1週間前から徐々に良くなっていった」が、3ラウンドで再び痛み始め「肩のせいで思っていた通りにできなかった。ベストを尽くしたが、十分ではなかった」。

 これに激怒したのは世紀の一戦に大枚をつぎ込んだファンだった。

 米国ではギャンブルの街・ラスベガスがあるネバダ州などいくつかの州で、スポーツ賭博は合法とされている。民間のブックメーカーが運営するスタイルで、あらゆるスポーツ競技が賭けの対象になっており、成人ならば誰でも入れるカジノで賭けることができる。ラスベガスが“ボクシングの聖地”なのはギャンブルという要素も大きい。

 ラスベガスでボクシングや格闘技のイベントを開催する際は、ネバダ州アスレチック・コミッションの認可が必要だ。州ごとに存在する同コミッションは、選手のドーピング検査やメディカル・チェックを行い、違反するとライセンスを停止させるなど大きな権限を持っている。パッキャオは前日計量時の問診で肩にけがはないと答えていたため、ネバダ州のコミッションから処分を科される可能性がある。

 それに加え、米メディアは5日、同州の住民などが、パッキャオが右肩のケガを隠したことで損害を被ったとして、500万ドル(約6億円)以上の賠償を求めて集団提訴したと報じた。住民らはチケット代金や有料放送の視聴料、パッキャオ勝利に賭けた代金の返還を求めている。

「有料放送の視聴料は3億ドル(約360億円)、対戦の賭け金は同州だけで6000万ドル(約72億円)にのぼる。今後さらに訴訟が増える可能性もある」とは現地関係者。

 波紋はカンボジアでも広がった。パッキャオを応援していたフン・セン首相は、判定の結果に激怒。演説で9分間にわたり審判批判を行い、試合を「八百長」呼ばわりした。

 この話は脱線。政府関係者と勝敗をめぐり5000ドル(約60万円)を賭けていたものの、結果に納得できず、「金は払わない」と支払い拒否を宣言したのだ。賭けの相手は政府役人だったと報じられた。同国では公認カジノ以外での賭博は違法行為に当たるから、いくら怒っているとはいえ、首相ともあろう者が…。

 本紙で「亜細亜スポーツ」を連載するアジア専門ライターの室橋裕和氏は「フン・セン体制は30年続く独裁政権。『自分は何をやってもOK』という意識があり、問題発言とは思っていないのだろう」と分析。

 その上で「カンボジア国民はもともとがギャンブル好き。賭博禁止は表向きで、闇カジノはそこらじゅうにある。今回の発言が原因で、暴動や政変に発展することはないと思う」と話す。

 ただし「フン・セン首相がアッサリ言ってのけた賭け金5000ドルは、貧困社会に生きるカンボジア国民にとっては大金。庶民感覚がないと思われても仕方がない。場合によっては、次の選挙に影響を及ぼす可能性はある」とも指摘した。

 なお、2人が再戦に前向きな姿勢を示したと5日、米スポーツ専門局ESPNが報じた。同局は、パッキャオをプロモートするボブ・アラム氏も再戦に意欲を示したとも伝えている。

 パッキャオは右肩の手術を受ける予定で、復帰まで最大1年かかるという。メイウェザーはESPNの関係者に「手術の1年後に、彼と戦うだろう」とのメッセージを送った。