達成感はない――。昨年12月30日にWBO世界スーパーフライ級王者となり、世界最速の8戦目での2階級制覇を達成した井上尚弥(22=大橋)が本紙の単独インタビューに応じ、意外な言葉を口にした。いったいなぜなのか? V34を成し遂げた大相撲の横綱白鵬(30=宮城野)もビックリの超長期にわたる“安定政権”への野望があるからだ。怪物ボクサーが「35歳現役」を目指す胸中を激白した。
――ダウン経験のないオマール・ナルバエス(39=アルゼンチン)を4度倒して王座を奪取した
井上:あの試合は判定勝ちでいいと思っていました。ファーストパンチをしっかり当てて相手を警戒させるようにしよう、という作戦だったんです。それが倒れてビックリしましたね。
――昨年4月に日本最速の6戦目で世界王座(WBCライトフライ級)奪取。満足度は高い
井上:いえ、それが「達成感」というものは、ないんですよ。
――どういうことか
井上:実は、何が自分自身の「目標」かということも定まっていないんです。ゴールが決まっていないのだから、それに対する達成度というのも、ないんですよね…。(世界最速の2階級制覇も)それはゴールではありませんから。とにかく勝ち続けていって、35歳まで現役でやりたいと思っているんです。
――35歳まで! 今はまだ22歳だが…
父・真吾さん:自分としては、27~28歳で引退してもらいたいと思っているんですけどね…。
井上:お父さんにはずっと前から、そう言われてますよね。でも、そう考えると、あと5~6年しかないわけじゃないですか。そこから「味のあるボクシング」ができるんじゃないのかなって思うんです。八重樫さん(東=32、大橋)みたいに。(そう考えるようになったのは)去年、世界王者になった時からですね。
――35歳まで年間3試合で39試合。タイトル防衛も40回はできる
井上:…(苦笑)。
――複数階級制覇よりも同階級で「最強を証明したい」と言ってきた
井上:それは、その通りですね。Lフライ級では練習でつくったものを出し切れていませんでしたけど、今回はそのままリングに持って上がることができました。さすがに将来、どの階級でやるかというのは、今は想像ができないですけどね。
――Lフライ級(約48・9キロ以下)とSフライ級(約52・1キロ以下)の差はかなり大きい
井上:はい。でもオフでも増やすのは58キロまで…というのは変わりません。確かにLフライ級の時は試合の2週間ぐらい前に焼き肉の食べ納めをしていたのですが、今回は1週間前でも食べることができました。でも、回数は、むしろ減っているぐらいなんですよ。
――どうして
井上:Lフライ級では減量がキツいから反動で試合が終わってワーッと(食べる)というのがあったんです。減量の負担が減った分、リバウンドがなくなりましたね。
――Sフライ級での防衛ロードは
井上:決められた試合をやっていくだけですけど、相手が変わっても(ナルバエスを2回KOしたような)ああいう試合を見せられるようにしたいですね。
――Sフライ級にはWBA王者に河野公平(34=ワタナベ)がいる
井上:できれば河野さんとはやりたくないですね。「年間表彰」(1月23日)でお会いして話した時も、すごくいい人だったので。でも、試合が決まれば「仕事」としてやりますよ。決められた相手とやるだけですね。
真吾さん:皆が望むような相手との試合をしたい。
――WBCフライ級王者のローマン・ゴンサレス(27=ニカラグア)の名前も浮かぶ
真吾さん:ロマゴンとやるなら、その前に何試合か挟みたい。ナオはまだプロで8戦しかしていないから、いろいろなタイプの選手との経験を積み重ねた上で不安を克服するようにしたいですね。
――ところで右手を痛めて、春に予定していた防衛戦も延期となった
井上:試合中に“ビビッ”ときたのですが、それほど深刻な状態ではありません。ドクターのOKが出るまでは左と下半身をしっかり鍛えて、次の試合ではさらに強くなった姿を見せられるようにしたいですね。
――どんな試合をファンに見せたいか
真吾さん:試合が終わった瞬間にお客さんが「さぁ、帰ろう」ではダメだと思うんですよ。勝った後も会場に残って大興奮してもらえるような試合をしないと。ナルバエス戦はできたと思う。帰りの電車でも、飲みに行っても「井上の試合すごかったなぁ」と勝利の余韻に浸ってもらえるようにしたいですね。
井上:仕事として、それをしなければいけない、と思っています。
☆いのうえ・なおや=1993年4月10日生まれ。神奈川県出身。アマチュアでは高校史上初の7冠を達成。2012年10月にプロデビュー。13年8月に日本ライトフライ級、同年12月に東洋太平洋同級王座を獲得。昨年4月6日、国内史上最速の6戦目でWBCライトフライ級王者、12月30日に8戦目でWBOスーパーフライ級王者になり、世界最速の2階級制覇王者に。ニックネームは「モンスター(怪物)」。戦績は8戦8勝(7KO)。170センチ。
「35歳でも現役」井上尚弥がブチ上げた超長期“安定政権”の野望
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