WBA世界フライ級タイトルマッチ(22日、大阪府立体育会館)で同級3位の井岡一翔(26=井岡)が王者ファンカルロス・レベコ(31=アルゼンチン)に2―0で判定勝ちし、3階級制覇を達成した。日本選手としては亀田興毅以来2人目の快挙となったが、この勝利は決してゴールではない。今年の大みそかには、避けては通れない「軽量級最強王者」との頂上決戦プランが浮上しているからだ。

 大混戦を逃げ切った。3人のジャッジがすべて一翔にポイントをつけたのは1、5、8と9Rの4回のみ。一翔は「王者じゃなくなって崖っ縁。正念場だった」と悲壮な覚悟で臨んだが、ダウン一つで勝敗が入れ替わっていたかもしれない。そんな土俵際にも、自分の間合いでのボクシングに徹し相手にペースを与えなかった。それだけに「良かった、という軽い言葉だけでは表しきれない」(一翔)と、勝利の喜びもひとしおだった。

 昨年5月にIBFフライ級王者のアムナット・ルエンロン(35=タイ)に判定負けして3階級制覇に失敗。「一番自信のあるボクシングで、初めてみじめになった」と一翔が振り返るプロ初黒星を喫した。

 それから約1年。試合後の会見では父で所属ジム会長の一法氏(47)が思わず「10日。いや半月ぐらい休みたい」と漏らしたほど、精根尽き果てての大願成就。しかし、この勝利は決してゴールではなく、次へのステップでしかない。

 今後について聞かれた一翔は「やっと本当のカムバックができた。これからはボクシング界を引っ張っていけるようにしたい」と話し、ビッグマッチに意欲を見せた。

 次戦の候補として浮上しているのが、アムナットへのリベンジを兼ねたIBF王座との統一戦。アムナットとはすでに再戦に向けて関係者が陣営に接触している。さらに注目は年末の相手。WBC世界フライ級王者で「軽量級最強の男」ことローマン・ゴンサレス(27=ニカラグア)が有力候補に挙がっているのだ。

 一翔の試合を放送するTBSでは、2011年から毎年大みそかの興行が恒例となっている。今年もすでにレベコ戦の前から会場として大阪府立体育会館を予約した。

 年の暮れをボクシングで締めくくるのは、テレビ東京がWBAスーパーフェザー級王者の内山高志(35=ワタナベ)の防衛戦を同じく4年連続で行い、いまや風物詩。さらに昨年はフジテレビが12月30日に井上尚弥(22=大橋)や村田諒太(29=帝拳)の試合を放送し、競争は激しさを増している。

 その中で“差別化”するには、やはり「一翔にビッグマッチをやってもらう必要がある」(TBS関係者)。3階級王者となった一翔と、42戦全勝と無敗街道を突き進む怪物「ロマゴン」との対決は大きな注目を集めることが確実だ。

 一翔とロマゴンには、ライトフライ級時代にWBAから対戦指令が出ながら実現しなかった“因縁”がある。一翔は以前から「逃げたと言われるのはしゃくなので、お互いが王者になって戦いたい」と話しており、今まさにその状況になった。

 ロマゴン側はレベコ戦の前から「一翔とやるなら今」と対戦に意欲を表明していた。これは、ロマゴンが対戦を受けてくれるかが懸念材料だったTBSサイドとすれば“渡りに船”だ。関係者は「近く(ロマゴン側と)会うことになると思うので、さっそく(大みそか決戦実現に向けて)話をしたいと思います」と明言。事態は早くも動きだしている。

 真の「最強王者」を証明するための道は、これまで以上に険しくなることは間違いないが、だからこそ挑む価値がある。