【取材の裏側 現場ノート】2020年9月に現役を引退したボクシング元世界3階級制覇王者の八重樫東氏(38)は、所属した大橋ジムで元K―1ワールドGPスーパーバンタム級王者の武居由樹など後輩のトレーナーを務める一方で、軽貨物運送業社長としてアスリート支援活動にも力を入れる。

 選手が競技を優先させながら、仕事と両立させて少しでも長く現役を続けられるよう、また引退後もスムーズに社会に溶け込めるように、働く場所を提供してサポートしている。新型コロナウイルス禍の影響でアスリートを取り巻く環境が厳しくなっている現状を受け、7月24日から今月2日の期間には支援拡大プロジェクトとしてクラウドファンディングを実施。目標の400万円を超える金額が集まったという。

 その期間中に八重樫氏にインタビュー(電話)をさせてもらった。ボクサー2戦目を戦った武居の話が目的だったが、やはり気になったのでプロジェクトの進行状況も話題に。その時点で、すでに目標金額まであと一歩という段階まできており八重樫氏の「アスリートに悔いのない現役生活を」との思いが結実の方向に向かっていることを実感した。

 しかし八重樫氏は「すべてをまかなえているかといわれるとそうではない。まだ形ができていないのが事実」と目標の半ばであるとし「軽貨物運送業はあくまでも手段の一つとして捉えており、今後は同じ志を持つ企業さんなどとも協力したい。そうやって少しずつ輪を広げていくというのも大事なんだと思います」と今後のビジョンを明かしてくれた。

「プロアスリートが競技を全うできるような環境をつくっていかないと日本のスポーツ業界はあまり伸びていかないのかなとは思います」とスポーツ界全体のことを考えつつも、やはり思いは〝アスリートファースト〟で「命がけで競技に取り組んできたのに、引退後に手元に何も残らないのもあまりにも残酷。引退した後もパッと生活していけるような力があれば生きていけるが、そうでないアスリートも多い。有名な選手でも、引退した最初のうちはいいけど知名度などが、どんどんなくなってくると、賞味期限が切れたみたいにポイっとされたりするんです、選手は。だから僕なんかは微々たるものですが、近いところから手助けできたらいいなと思っています」と力説した。挑戦は今後も続く。

(ボクシング担当・桂川智広)