WBA世界フライ級5位の井岡一翔(25=井岡)が、9月16日に東京・後楽園ホールで同14位のパブロ・カリージョ(25=コロンビア)と再起戦を行うと発表した。5月に3階級制覇に失敗した一翔は自信を取り戻すため、1980年代に黄金時代を築いたスーパースターのスタイルに“変身”を遂げるという。

「前回、結果が残せなかった不安要素はあります。(リーチが長い相手は)苦手なのかな? と」再起戦を発表した一翔の口から、思わぬ弱気な言葉が飛び出した。それほど3階級制覇失敗のショックは大きかった。

 2011年2月に国内最速(当時)の7戦目で世界王者となり、12年6月にはミニマム級で日本初の統一王者となった。同年の大みそかには2階級制覇。順調すぎるほどの快進撃を続けていたが、5月7日にIBF世界フライ級王者のアムナト・ルエンロン(34=タイ)に判定で敗れ、プロ初黒星を喫した。

 敗因はリーチで約9センチも上回る相手に主導権を握り続けられたこと。ルエンロンにはアマ時代にも敗れており、リーチ差が“トラウマ”となりかけているようだ。だがフライ級を主戦場にすると決めた以上、体格で上回る選手と戦うケースは多くなる。そこで参考にしたのが1970~80年代に中量級のスーパースターとして君臨したシュガー・レイ・レナード(58=米国)だった。

 ウエルター~ライトヘビー級の5階級を制覇したレナードは、同じく5階級制覇を達成したトーマス・ハーンズ(55=米国)との激闘(81年9月)が有名。ハーンズには身長、リーチとも約10センチも劣っていたが「しっかり自分の距離を保って、逆に相手がやりにくそうにしていた。ステップの速さを見習いたい」と一翔は目を輝かせた。

 89年生まれの一翔にとて、80年代に全盛期を築いたレナードが記憶に残っているはずもない。だが、父親の一法会長(47)は豊富なビデオコレクションを所有しており「昔から見せていた」(一法氏)と明かす。

 出入りを激しくスピードで相手を圧倒し、チャンスと見るや超人的なパンチの回転力で一気に勝負を決める――。レナードがハーンズ戦やマービン・ハグラー(60=米国)戦(87年4月)で見せた必勝パターンだ。復帰戦へ向けレナードを手本としたことで「ボクシングの幅が広がった」と一法氏も息子の成長を評価した。

 再起戦直前の9月5日にはフライ級の大一番、WBC世界フライ級王者・八重樫東(31=大橋)対ローマン・ゴンサレス(27=ニカラグア)戦が行われる。それでも「興味はあるけど、今は自分が王者になりたい、という気持ちだけ」と、あくまで目前の試合に集中する一翔。復帰戦で“ニュー・カズト”を披露し、再び3階級制覇へと向かう。