ダブル世界戦(23日、大阪城ホール)のWBCバンタム級タイトルマッチは王者の山中慎介(31=帝拳)が同級3位シュテファーヌ・ジャモエ(24=ベルギー)を9回11秒、TKOで破りV6に成功した。これで5連続KO防衛。必殺「ゴッド・レフト」の切れ味は増すばかりだが、今後の防衛ロードの相手には消えたはずの「あの男」も浮上している。

 まさに「神の左」だ。2回に電光石火のストレートで最初のダウンを奪うと、8回はボディーと顔面に強打を当ててジャモエを2度倒した。最後は再びボディーで倒したところでレフェリーストップ。いずれも左で奪ったダウンだった。

 ところが試合後の山中は「一発倒した後の展開が課題。あれなら6、7、8回で仕留めないといけない。それができないと人気も出ない」とまず反省の言葉を口にした。

 世界戦での5連続KOは、WBAスーパーフェザー級王者の内山高志(34=ワタナベ)と、バンタム級での長谷川に並んで国内2位タイ。元WBAライトフライ級王者の具志堅用高氏(58)の持つ記録「6」に王手をかけたとあって、本来なら喜んでもいいところだが、笑顔なき会見。これには理由があった。

 日本のバンタム級王者といえばファイティング原田氏(71)に始まり、辰吉丈一郎(43)、長谷川、そして興毅(27)と和毅(22)の亀田兄弟らの名前が挙がる。「自分は歴代の方々よりも記憶に残っていないと思う。強さには自信があるけど、記憶に残るような試合がしたい」が今回の山中のテーマだった。

 山中も日本のボクシング史に確実に刻まれる強さを誇るが、一般へのアピール力となると派手な歴代王者に比べてイマイチ弱いのは否めない。今後、ネームバリューを上げていく手段の一つに海外進出があるが、帝拳ジムの本田明彦会長(66)は「海外(での試合)は相手あってのこと。バンタムに話題になる選手がなかなかいない」とスーパースター不在の現状を説明する。

 そうなると、残るは他団体との統一戦だ。山中との対戦を巡っては、和毅がWBO王者となった後から挑発的な表現を交えて希望し続けてきた。ただ、昨年12月に起きた大毅(25)の“負けても防衛”問題の処分で、亀田ジムには会長とマネジャーのライセンスを持つ人間が不在。現状では亀田三兄弟は国内で活動できない。山中に対する和毅の言動も皆無となり、WBO王座はWBC王者の統一戦の対象から外れたとみられていたが…本田会長は「いろんな問題をクリアすれば、やらないわけじゃない」と本紙に注目発言。

 もちろん、亀田側が自力で国内での活動を再開できるようにするのが大前提で、帝拳サイドがこの手助けをするわけではない。一方で、過去には興毅と内藤大助の対戦が50%近い視聴率を記録した前例もある。ともにベルトを懸けた統一戦となれば、これを上回るキラーコンテンツともなり得るだけに一般へのアピールとしては最高。「あくまで他の3団体の王者の中の一人」(本田会長)とはいえ、山中サイドにはそんな狙いもありそうだ。

「山中も俺を無視できんやろ」と大口を叩いたものの、事実上相手にされていなかった和毅にとっても、初めて山中側から名前が挙がったことは地に落ちたイメージを回復するまたとないチャンス。“神の左”がどのようにして歴代王者に並ぶ派手な伝説を築くのか注目される。