日本ボクシング連盟は、ロンドン五輪男子バンタム級銅メダリストの清水聡(27=自衛隊)が2016年リオ五輪出場を目指し現役を続行すると正式発表した。清水は会見を欠席したが、国際ボクシング協会(AIBA)が昨年独自に設立したプロ団体「APB」に参戦する見込み。いったいAIBAは何をやりたいのか? 意外なその実態とは…。

 何とも不思議な現役続行会見だった。人生の節目となる日に、清水本人は出席せず、登壇したのは連盟幹部ばかり。「当初は本人が来てお話しする予定でしたが、諸事情により来ません」(日本ボクシング連盟・山根明会長)

 日本連盟は明言しなかったが、清水はAIBAが昨年設立したプロ団体で五輪参加が可能になる「APB」に参加するのは決定的。同会長によれば、清水は今月いっぱいで自衛隊を退職する意向を伝えているという。だが、現時点では自衛官。プロの話をするわけにはいかなかった。「先月、現役を続けると報告してくれた時は、涙が出た。清水はわれわれの宝」(山根会長)。清水の現役続行をいち早く明らかにしたかった…というのが“勇み足”の理由のようだ。

 清水が参戦する「APB」なる団体はどんなところなのか? 当初は実態が分からず、待遇面でも魅力が薄かった。新団体に参加しリオ五輪を目指すと言われた五輪2大会連続金メダルのワシル・ロマチェンコ(26=ウクライナ)も急転、プロ転向。日本でもロンドン五輪ミドル級金メダルの村田諒太(28=三迫)は早々に不参加を表明しプロのリングへと戦場を移した。

 もともと、APBの設立の目的はプロへの選手流出に歯止めをかけるため。そこで、AIBAはリオ五輪が近づくのに合わせ「これはイカン」とばかりに、有力選手確保へ向けてできる限りの待遇改善を進めている。

 12年時点では契約金が440万円、4年にわたり毎月30万円が支給され、試合のたびにファイトマネーが支給されるというものだった。この条件を新たに見直し、金額は上積みされる見込みだ。ちなみに、ルールは10階級(プロは17階級)でヘッドギアもタンクトップもなし。ラウンド制については不明だが、採点法はプロ同様に減点法が採られる。

 日本連盟関係者によれば、50か国80人が契約するそうだが「これ(金額の上積み)以外にも各種の保障や試合遠征費用、海外で練習する際にかかる費用も全部AIBAが面倒を見るんです。AIBAはお金ありますよ」。

 ファイトマネーが何十億円というプロのトップボクサーにはかなわないが、国によっては莫大な金額に映るだろう。初期投資には十分な額。アマチュアの競技団体としてAIBAは意外に“金満”な体質のようだ。

 リオ五輪に出場するためには、APBに参戦することが出場への近道になる。

「(APBに参戦しない)アマチュア選手の出場枠が非常に厳しくなる」(吉森照夫専務理事)と五輪をちらつかせ、WBCやWBAなどのプロ団体と明らかな差別化を図っている。

 とはいえ、清水のAPB第1戦は「まだいつになるか分からない」と連盟関係者は口を揃えており、不明瞭な点も多い。清水は4月以降に改めて会見を開くが、日本人初のプロ兼五輪出場を目指す先駆者になれるか。