井上尚弥が防衛戦7RKO勝ち モロニー仕留めた“新兵器”の全貌 

2020年11月02日 10時45分

井上(右)の“超速パンチ”がモロニーの顔面をとらえた(トップランク社提供、ゲッティ)

≪試合前スパーで見せた進化≫衝撃の新兵器だ。WBAスーパー&IBF世界バンタム級タイトルマッチ(31日=日本時間1日、ネバダ州ラスベガス)は、約1年ぶりの試合となった統一王者の井上尚弥(27=大橋)が挑戦者のWBO同級1位ジェイソン・モロニー(29=オーストラリア)に7ラウンド(R)KO勝ち。WBA4度目、IBF2度目の防衛に成功した。モンスターは聖地ラスベガスでの初陣で最強を大いにアピールしたが、2度のダウンを奪った「超速パンチ」には意外な秘密があった。

 まさに「電光石火」のパンチ2発で仕留めた。まずは6R、井上とモロニーが同時に左を出したと思われた瞬間、モロニーだけがマットに倒れた。続く7R、今度は右の相打ちになった場面で井上のストレートが一瞬早く顔面をとらえ、モロニーは尻もちをつくようにダウン。必死に立ち上がろうとしたものの、6Rのダメージと合わせてヒザに力が入らずフラフラでKO負けとなった。

 運悪く瞬きでもしていたら見逃してしまいそうな「超速パンチ」。実はこれ、この試合に向けたモンスターの“新兵器”だったという。井上のプロデビュー前からスパーリングを重ね、モロニー戦に向けても拳を合わせた元日本ライトフライ&フライ級王者の黒田雅之(34=川崎新田)がこう説明する。

「今回(試合前のスパーリングで)は、構え方とかが違っていました。ヒジの角度が違っていました。前までは脇を緩めにしている印象でしたけど、ピッタリ締まっている印象でした」

 このことによるメリットは「パンチを小さく打てる」(黒田)ことだ。「小さく」と聞くと威力も弱くなる感じがするが、野球のピッチャーに例えれば振りかぶるような“予備動作”がなくなるということ。黒田によれば、そうして打つことで「同時にパンチを打ったとしても先に届く。それに小さく打っても、彼なら倒しちゃう」という。

 今回はまさにその通りの展開。最初のダウンは左フックだったが、井上の左は「初めてスパーリングした時に左利き?と思ったぐらい強かった」(黒田)。相打ちの際に被弾すると防御の体勢が十分にとれていないので破壊力は段違い。モロニーもそんな場面で並外れた威力の左でダメージを受け、続くラウンドに右でとどめを刺された格好だ。

 世界最高レベルに至ってもさらに進化していることになる。それだけに評価は高まる一方だ。この試合の井上のファイトマネーは100万ドル(約1億500万円)。31日には、本来1週間前に開催されるはずだったWBA世界フェザー&スーパーフェザー級スーパー王者レオ・サンタクルス(32=メキシコ)と、同ライト級王者のガーボンタ・デービス(25=米国)の試合も行われた。興行戦争の様相でも、軽量級では破格の金額を払ったのはトップランク社の期待の表れだ。

 そこで文句なしの結果を出したことで、同社のボブ・アラムCEO(88)はツイッターに「信じられないような、とても素晴らしいファイトをボクシングファンが見ることができた」と投稿。さらに「パウンド・フォー・パウンド(体重差がないと仮定した場合のランキング)でトップへの道を進んでいることを証明した」と絶賛した。

 自ら「第2章のスタート」と位置づけた聖地での一戦で見せた衝撃の超速パンチ。今後、この新兵器でどれだけKOを積み重ねていくのか。ここまで20戦全勝、無敗のモンスターの最強伝説にますます注目が集まる。

≪パンチ的中率にも大きな差≫

 初防衛に成功した井上はデータ面でも打撃の精度の高さが示された。パンチの数や的中率を調べる「CompuBox」では、パンチ総数は井上が338発、モロニーが334発とほぼ同じながら、的中率は32%(107発)と19%(62発)と大きな違いがあった。

 強打に絞れば、井上が174発のうち63発が的中、モロニーは125発中32発と倍近い開きがあった。この違いが相手に与えるダメージの差に直結し、中盤決着につながった。ジャブは王者が164発を繰り出して的中44発、モロニーは209発中30発だった。