昨年9月に世界最速記録の12戦目で3階級制覇を達成したのがWBO世界フライ級王者の田中恒成(23=畑中)だ。WBAスーパー&WBO世界ライト級王者ワシル・ロマチェンコ(30=ウクライナ)の記録に並ぶ快挙を達成したが、初防衛戦(3月16日、岐阜メモリアルセンター)ではいきなり元WBA&IBFライトフライ級王者で強敵の田口良一(32=ワタナベ)の挑戦を受けることが決まり、注目を集めている。若き3階級制覇王者が本紙単独インタビューに応じ、決戦への胸の内を大いに語った。

 ――田口選手との対戦が正式に発表された

 田中:(3年越しの)対戦ができることはうれしいし、メチャクチャ楽しみです。ファンの皆さんが最も見たいであろう相手は田口さんだと思うんです。そういうのと自分の気持ちがイコールになっているので、モチベーションは上がりますね。

 ――2017年大みそかにお互いがライトフライ級王者として統一戦で戦う予定だったが、今回はフライ級王者として挑戦を受ける

 田中:状況は変わっても2団体の統一王者という肩書も、実績もある田口さんが強い選手ということに変わりはないですから。でも1年前に統一戦って言ってた時には、厳しい相手に間違いないから「勝ちたいな」「勝てれば合格点」という気持ちでいきました。この1年で自分のほうがより成長したところを出したいので、3月の試合では倒しにいきます。

 ――相手の印象は

 田中:田口さんと(井上)尚弥さん(現WBA世界バンタム級王者)との試合(13年8月の日本ライトフライ級王座戦、井上の判定勝ち)も見に行ったんですよ。自分はまだプロにもなってなかったですけど「強いな」という印象でした。考えてみたらプロの試合で尚弥さんに倒されてないのは、(ダビド)カルモナ(メキシコ)と2人だけですよね。気持ちも強いし、スタミナもあるので倒すのは難しい相手になるかもしれません。

 ――昨年9月に現在の王座を獲得しロマチェンコの3階級制覇記録に並んだが、ロマチェンコには「自分の記録をコピーしただけだ」と言われた

 田中:それは認めざるを得ないですね。(タイ記録は)うれしいことではありますけど、ボクシング知ってる人なら「記録の上では」となるのは誰でもわかることなので。「コピーしただけ」というのはその通りですから。同じことでも誰かがやったことと最初では全く違うので。「タイ」に並ぶのと「最速」じゃ全然違う。何でもパイオニアがすごいんです。それに(ロマチェンコのほうが)実績も全部上だから「並ばれた」とか言われてもうれしくないと思いますし。でもこれで終わる気もないので、今の倍ぐらい何か結果を残すつもりでやってます。

 ――その決意を踏まえ、田口戦はどういう試合をしたいのか

 田中:(ベルトを奪った昨年9月の)木村(翔)さんとの試合では序盤から「こんなに攻めちゃっていいのか?」と思うぐらい積極的に自分で出て、それを最後までできて勝てたことは自信と成長につながりました。いわば気持ちの勝負でしたけど、真っ向勝負しすぎたというか。持ってる技術を使わずに終わっちゃった感じだったので、今度は技術面をもっと欲張りたいですね。そのために今回はスパーリングなどの実戦練習を増やすつもりです。

 ――新しい田中恒成を目指す

 田中:大げさな「必殺技」とかはないですけど(笑い)。もっと足使ったり、もうちょっとテクニック使ったりとか、いろんな組み立て方ができると思うので。自分にしかわからないような、本当に小さなテクニックとかかもしれないですけど、そういうのをどんどん使っていきたいですね。

 ――田口戦は待望の全国放送(TBS系)だ。モチベーションも高まるのでは

 田中:昨年はどこに行ってもその話(木村戦は名古屋ローカル放送)になりましたね。そういう悔しい思いはずっとしています。有名になりたい、お金持ちになりたいっていうのはメチャクチャありますけど、そこで忘れたらいけないのは自分がボクシングやってる本質は何かっていうこと。強くなりたくてボクシングを通してカッコ良くなりたくてやってるので、その本質を忘れないでいるようにしたいですね。

【17年大晦日「消えた一戦」再び】田中が同級4位の田口の挑戦を受けるWBO世界フライ級タイトルマッチ。両者はともにライトフライ級王者(田中がWBO、田口はWBA)だった2017年の大みそかに王座統一戦を行う方向で合意していた。ところが、同年9月のV2戦で田中が両目眼窩底骨折の重傷を負ったことで対戦は消滅した。

 田口は同年大みそかにIBF王者ミラン・メリンドに判定勝ちし、WBAとの統一王者となったが、この次戦となった昨年5月の試合に敗れて無冠に。今回は再起戦を挟まずに、挑戦者の立場として世界戦では初となるアウェーのリングに上がり、2階級制覇に挑む。

 また、田中は昨年9月に王者の木村翔に挑戦したWBO世界フライ級王座戦がWBO(世界ボクシング機構)から年間最高試合に選出された。世界最高峰と認められた壮絶な打撃戦だったが、この名勝負はテレビで全国中継されず名古屋ローカルのみということでも話題になった。

☆たなか・こうせい 1995年6月15日生まれ。岐阜・多治見市出身。中京大学経済学部卒。小学5年からボクシングを始め、アマチュアでは高校4冠を達成。中京高在学中だった2013年11月にプロデビューし、15年5月には国内最速記録の5戦目で世界王座(WBOミニマム級)を獲得。16年大みそかには同ライトフライ級王者となり2階級制覇。昨年9月、世界最速タイの12戦目で3階級制覇を達成した。身長164センチ。タイプは右ボクサーファイター。