【ネバダ州ラスベガス18日(日本時間19日)発】物静かな王者のキャラは大きく変わるのか。ボクシングのWBA世界ミドル級タイトルマッチ(20日=同21日、パークシアター)でV2戦を行う王者の村田諒太(32=帝拳)が他の出場選手とともに記者会見に臨んだ。同級3位の挑戦者、ロブ・ブラント(28=米国)との一戦は、今後のボクシング人生を左右する大一番。本場でのファイトに加え、団体からの“お墨付き”の一戦に勝てば「ビッグマウス」への道も開けるとあって、ミドル級戦線の主役に躍り出るチャンスだ。

 これが王者の風格か。今回の興行のプロモーターでもあるトップランク社のボブ・アラムCEO(86)を挟んでブラントと壇上に座った村田は堂々としたもの。世界王者となってから初の聖地での戦いを前にしても「緊張というのは全くないです」という言葉通り、実に落ち着いていた。試合の展望を聞かれても「リングで何か特別なことができるわけじゃない。結局は練習でやってきたことしかできない」とおとなしめのコメントで、米国人が好みそうな派手なKO宣言などのリップサービスもなかった。

 だがそれも、この試合までかもしれない。今回の相手のブラントは、WBAが対戦指令を出した、ランク最上位扱いの「指名挑戦者」。村田も「指名試合をやれることがありがたいし、モチベーションは高いです」と話した。その上で今後を見据えた注目発言が飛び出した。

「指名試合に勝てば、いろいろと言う権利があると思う」

 プロボクサーが試合前の挑発合戦や大風呂敷を広げる発言をするのは珍しいことではない。時には到底実現しないような対戦要求といったビッグマウスで世間の注目を集めるのも、ある意味で一つの仕事のようになっている。読書家であり、あまり大きなことを言うタイプではない村田はそのくくりに入らないタイプだが、今回V2達成なら話は変わる。

 米国のリングでメインイベンターを務め、指名試合をクリアしたとなれば多少のビッグマウスは許される。むしろ「真の王者」として認められれば、今後の対戦要求なども自身が主導権を握ってブチ上げることができる。

 有象無象のボクサーがビッグネームの名前を出すことで“売名行為”に利用することもあるが、それとは別次元。実力のある王者から名前を挙げられれば、相手も真剣に取り合うようになる。その言葉に世間が反応すれば対戦機運が高まり、一大ムーブメントを起こすことも可能。ビッグマネーを生み出すことにもつながる。

 アラムCEOはこの日改めて、前WBAスーパー&WBC世界ミドル級王者のゲンナジー・ゴロフキン(36=カザフスタン)との対戦について、村田の今回の勝利が前提とした上で「来年1~3月ぐらいに東京ドーム、あるいはラスベガスでやることについて交渉を始めることになると思う」と話した。

 試合が実現すれば村田が王者で、ゴロフキンは挑戦者となる。“ボクシング界の聖書”と呼ばれる米「リング誌」が制定する「パウンド・フォー・パウンド」(体重差がないと仮定した場合のランク)で長らくトップに君臨したゴロフキンとの「格」が即逆転するわけではないが、少なくとも対等に近い立場で発言することは許されるようになる。

「この試合の結果によって、すべてが変わると思う」という村田の発言は、ただの防衛戦ではないという重みを理解しているから出た言葉。人生を変える戦いのゴングは間もなく鳴らされる。