【山本美憂コラム】完全に浮足立っていた16年のRIZIN初戦「なんで私はここにいるんだろう」

2022年07月25日 16時00分

山本(上)のアゴをRENAのキック(東スポWeb)
山本(上)のアゴをRENAのキック(東スポWeb)

【山本美憂もう一息!(24)】弟のノリ(徳郁さん)の胃にがんが見つかったことで、そばにいたいと思った私は2016年8月、総合格闘技(MMA)挑戦を決めました。もともとボクシングが好きで興味があったのですが、私の真意を知らないノリは反対。それでも姉の本気度を知って、コーチ就任を買って出てくれました。

 表明からすぐ、RIZINからデビュー戦の打診を受けました。1か月半後の9月25日だというのです。どれだけ早くても年末に試合が組まれると思っていたので驚きました。ノリは「いい練習試合だと思ってやったら」と背中を押してくれたのですが、その後オファーされた相手を聞いて驚きました。RENA選手。シュートボクシングの女王と呼ばれる強豪です。「いきなり!?」と正直ひるみました。立ち技の経験はゼロに等しい。さすがにノリも懸念していましたが、最終的には対戦を決意しました。

 姉を不安にさせてはいけないと、ノリは「全然大丈夫だよ。寝かせちゃえば!」と前向きに励ましてくれました。このころはノリも元気で、自分の練習もしながらMMA初心者の私を教えてくれました。でもどれだけ猛練習を積んでも、やはり1か月半では足りなかった。タックルに入ってからの攻めも分かっていなかったんです。

 試合当日。大観衆を前にRIZINのリングに初めて立った私は完全に浮足立っていました。頭の中で「なんで私はここにいるんだろう。そうか、試合が決まってもうここにいるんだ! これは大変だ」という言葉が駆け巡りました。まったく集中できていなかった。ゴングが鳴り、RENA選手と私が動きながら対峙する時間が長かったことに、リングサイドに座っていたヴァンダレイ・シウバさん(※元PRIDEミドル級王者)がブーブーと文句を言っているのが聞こえてきました。「次に文句言ったら怒鳴りつけてやろう!」と怒っていたほど、気が散っていたんです。

 タックルで倒し攻めたのですが、攻防の中で下になったRENA選手の足が私のアゴをヒット。意識が飛んでしまいました。その後タックルに入ったのを全然覚えていない。気が付くと肩と首を決められ、1ラウンド4分50秒、アームトライアングルチョークで敗れました。

 アゴがすごく痛くて、3日後に病院に行ったら外れていました。MMAの難しさを思い知った一戦。いい経験になりました。もちろん落ち込む暇はありません。「新人だからやることいっぱいあるわ」と。負けても次の試合までは自分が強くなる期間。気持ちが切り替わりました。

 ノリも「お前は打撃がダメだから。やるぞ!」とギアが上がりました。打撃が苦手な姉のため、ノリは最高の環境を整えてくれました。

☆やまもと・みゆう 1974年8月4日生まれ。神奈川県出身。72年ミュンヘン五輪代表の父・郁榮氏の影響で小2からレスリングを始める。87年に中1で女子初の全日本選手権を制覇(44キロ級)し、47キロ級も含め5連覇。同選手権では計8度の優勝を誇る。91年、年齢制限のある世界選手権に特例で出場し史上最年少の17歳で優勝。94、95年も世界を制した。2016年にMMAに転向し「RIZIN」で女子格闘技をけん引。3人の子を持つ母。156センチ。

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