暗雲垂れ込める立ち技頂上決戦の行方は――。〝キック界の神童〟那須川天心(23)とK―1のエース・武尊(30)が激突するメガイベント「THE MATCH 2022」(19日、東京ドーム)が、フジテレビによる突然の地上波放送中止発表で揺れている。一世を風靡した「K―1」の生みの親でもある正道会館の石井和義館長(68)は、何かと注目を集める同大会をどう見ているのか。核心を突いた〝金言〟を2回に分けてお届けする。

 石井館長は1993年に立ち技格闘技イベント「K―1」を旗揚げし、世界規模で展開。2002年8月に国立競技場で行われた史上最大の格闘技イベント「Dynamite!」を成功に導くなど、プロモーターとして数々の実績を残した。石井館長も那須川と武尊の立ち技頂上決戦に注目しているが、水を差したのがフジテレビの地上波放送消滅問題だ。

 5月31日に公式ホームぺージ上で「主催者側との契約に至らず、フジテレビで放送しないことが決まりました」と発表。具体的な理由は明かされていないものの、大会実行委員を務める「RIZIN」榊原信行CEOと反社の関連を示唆する音声が流出したと週刊ポスト誌で報じられたことなど、さまざまな臆測が飛び交っている。

 こうした事情を踏まえ、石井館長は「フジテレビが調査してもんだ結果、これだけ盛り上がっている中でやめるという決断に至ったということは簡単なことではないと思います。他の局もフジテレビがやめたものをリスクを取ってやることはあり得ない。つまり(格闘技の)地上波放送は1回閉ざされたという感じじゃないですかね」と見解を述べた。

 だが、この状況は決してネガティブな側面だけではないという。「今回のことで『ネットを使った新しいビジネスを構築していくためのターニングポイントだ』と頭を切り替えて、ポジティブな発想でテレビ以上のことをやっていくべきでしょう」と訴える。

 ピンチをチャンスに転じるべきとし、具体策として「CMとか放送権料は安くなっているじゃないですか。だから逆に(地上波の)枠を買ってPPVの宣伝のために番組をつくってネットで売っていくやり方をやったほうがいいんじゃないかと思います。これからはPPVが盛んになる」と提案する。

 ただし、PPVによる有料化で心配されるのは、子供たちの目に触れる機会を奪ってしまうのではないかという点だ。これは那須川と武尊も危惧している。しかし、石井館長は「問題ないでしょうね」ときっぱり。「今の子供たちはコンテンツにお金を出すことへの抵抗がない。VR(仮想現実)をつけたり、そういうことで逆にプラスに出てくるんじゃないかと思います」と説明した。

 一方、プロモーターの視点で心配するのが「誰がレフェリーとジャッジをするのか」という点だ。もともと3ラウンド(R)プラス延長1Rでの完全決着ルールについては「判定の取りようがないでしょ」との理由で賛同できないという。

「だから僕はどんだけ片方が押していようが、ダウンがないならドローでいいと思ってるんですよ。選手が(完全決着にしたいと)言ったとしても『だったらダウンを取ればいい。ダウンを1回も取れなかったら、お前らが悪いんちゃうんかい』と言えばいい。だって、ドローなら何十年も語られるんですよ? 実際、(アントニオ)猪木、(モハメド)アリ戦も引き分けだったからこそ、語られ続けているわけでしょ?」

 ただし、一度決まったルールが覆ることがないのは事実。そこで「ならば…」と提案するのが、第三者によるレフェリーとジャッジの採用だ。KO決着ではない僅差の勝負だった場合、結果により炎上するリスクは限りなく高い。そこで、考える解決策がある。

「レフェリーもジャッジも、タイ人がいいんじゃないかと思います。実は第1回のK―1もそうだったんです。タイ人のレフェリーは何千試合とか裁いてますから、うまいですよ。今回のルールにも対応できるし、K―1もRISEも反対しないでしょ。僕自身? ジャッジくらいならお手伝いしてもいいけど、レフェリーは絶対、嫌や。恨まれるし(笑い)」

 満を持して実現する頂上決戦に石井館長の声は届くのか。

☆いしい・かずよし 1953年6月10日生まれ。愛媛・宇和島市出身。14歳のころから空手を始め、16歳で極真会館芦原道場入門。22歳で極真会館芦原道場関西地区総責任者になり5万人に指導。27歳で新日本空手道連盟正道会館を創設した。93年にK―1グランプリを開催。2002年8月の「Dynamite!」に10万人を集めた。現在も正道会館館長として精力的に活動している。