元貴ノ富士 転向目指す格闘技界から“冷視線” 角界「暴力」引退で反応シビア

2020年07月08日 16時00分

「貴ノ富士」時代の上山剛氏

 四角いリングでの前途はいかに――。暴力問題などを起こして昨年10月に引退した大相撲の元十両貴ノ富士(上山剛氏=23)が格闘技転向を表明したと一部で報じられ、注目を集めている。すでに練習を開始しており、目指すは格闘技イベント「RIZIN」のリングだという。そこでRIZINの榊原信行CEO(56)を緊急直撃。同氏は現時点では接触していないと強調した上で、口にしたのは意外なほど「シビアな言葉」だった。 

 元貴ノ富士は共同通信の取材に格闘家転向を表明。「角界では2回もファンを裏切ってしまった。三度目の正直じゃないけど、応援してもらえる選手になりたい」と再出発の決意をコメントした。将来的には世界最大の総合格闘技イベント「UFC」でのデビューを狙い、まずはRIZIN出場を目標にするという。

 この報道を受け、本紙の取材に応じた榊原氏は交渉の有無について「全くしていないです。驚きました」と明言。その上で「失敗や間違い、過ちを犯してもやり直すチャンスっていうのは、罪を償えばあるべきだと思います。改心をして真摯に向き合って精進できるならば、話は聞いてみたい。門戸を閉じることはしません」と交渉には応じるという。

 元貴ノ富士は2018年の3月場所中に付け人に暴力を振るい、日本相撲協会から「出場停止1場所」の処分を科された。師匠の貴乃花親方(花田光司氏)の協会退職に伴い、同年10月に千賀ノ浦部屋に移籍したが、昨年8月31日に再び付け人を暴行した上に差別的発言をしていたことも問題視され、9月の相撲協会の理事会で自主引退を促された。これに前後して、スポーツ庁に上申書を提出するなど相撲協会への対立姿勢を強めて現役続行を希望したが、10月に急転して引退届を提出し受理された。

 そうしたトラブル続きの過去もあるだけに、榊原CEOは「こういう時代で、コンプライアンスのこととかもあるので、僕らだけの判断だけでは決められない」と慎重な姿勢を崩さない。加えてRIZINが大相撲出身者に煮え湯を飲まされ続けてきたのも、態度を硬化させる原因になっている。

 15年大みそかから参戦した元大関把瑠都(35=エストニア)は3連勝を飾ったが、16年大みそかにミルコ・クロコップ(45=クロアチア)に49秒でKOされると戦意喪失の状態に。バラエティー番組出演に仕事をシフトしてフェードアウトし、気づけば母国で国会議員になっていた。18年には無免許運転で追突事故を起こし虚偽の供述をして引退した元幕内大砂嵐(28=エジプト)を参戦させるも、その後再び無免許運転が発覚して契約解除となった。RIZINは、常に“角界OB”に振り回されており「直近でも問題を起こしちゃった人(大砂嵐)がいたりするんで。慎重にいきたいです」(榊原氏)と及び腰なのも当然だろう。

 何より角界の頂点に君臨した元横綱曙(51)が総合格闘技ルールでは4戦全敗。大相撲出身者の苦戦が目立っており「いずれにしてもこれまで相撲界から転向して大成した人がいない」(榊原氏)との現実もある。

 この点については多くの元関取が出場する格闘技イベント「巌流島」の谷川貞治プロデューサー(58)も「相撲出身者ははっきり言って総合格闘技ルールには向いていないですよ。レスリングや柔道、ボクシングの経験がないと対抗できない。もしこのまま総合格闘技に出ても1試合で終わってしまう」と指摘。その上で「押し出して(闘技場から)3回転落させたら勝ちの巌流島ルールは相撲取りに有利ですし、磨いてからRIZINに送り込みますよ。ぜひ来てほしい」と公開オファーした。

 榊原氏は「変に色眼鏡で見ずに、客観的に見極めた上で向き合う機会があれば向き合いたい。心意気というか、思いを伝えに来てもらえたら話は聞きます。(体力に加え)精進できるだけの忍耐力があるか。そういうところを兼ね備えればチャンスはありますから」。要は本人のやる気と覚悟がすべてということだが、果たして参戦はかなうのか。

 

 

【50キロ減量成功】共同通信の報道では、元貴ノ富士は周囲の勧めで格闘技挑戦を決断し、現在は約50キロ減量して体重約115キロになったという。実際に見違えるほどスリムになっている。これまでの大相撲出身者の格闘家はアンコ形がほとんどだったが、体形の変化と23歳の若さは大きな利点になるだろう。

 ただ、大相撲出身者が苦しんできたのはやはり寝技への対応。相撲は「寝たら負け」だけに、基本的な動きの習得に時間がかかった。かつてアントニオ猪木氏(77)が曙とのスパーリングを公開したことがあったが、“燃える闘魂”が駆使する関節技の前に元横綱はタップの連続。元格闘技世界一とはいえ、体重が半分に満たない上にすでに引退していた猪木氏から完全に子供扱いされた。

 グラウンドが弱点ならスタンドで打ち合うしかないが、相手のストライカーからすればその巨体が絶好の的になる悪循環。寝技の練習を始めているという元貴ノ富士も「寝たら負け」の意識を変えられるかが、成功へのカギになる。