ピコ太郎のあの音も! 創業50年の電子楽器メーカー「ローランド」が英ロンドンに直営店

2022年08月02日 16時00分

ローランドのリズムマシン「TR-808」とピコ太郎(東スポWeb)
ローランドのリズムマシン「TR-808」とピコ太郎(東スポWeb)

 演奏体験をもっと身近なものに――。創業50年の楽器メーカーが意外なヒットで増収増益を記録している。その秘密を明かすべく流通ウォッチャーの渡辺広明氏(55)が現地まで出張取材を敢行。そこには音楽のバリアフリーが広がっており、浜松市やらまいか大使の渡辺氏も目からウロコの連続だった。

 コロナ禍の巣ごもり需要を追い風にしている楽器メーカーがある。静岡県浜松市に本社を構える「ローランド株式会社」は2021年12月期の決算で、前年同期比25%増の売上高800億円、純利益99%増の80億円を報告した。

 1972年に創業、来年創業50周年を迎える同社の強みとは何なのか?

「弊社の特長は電子楽器専門メーカーであることです。生楽器から切り離せないさまざまな制約を取り払って、より多くの人に音楽を楽しんでいただけるような電子楽器を開発してきました」

 こう話すのはグローバルAMEリレーション部長の寺内岳氏。

「ほとんどの方が日常生活の中で自分の好きな音楽を聴いています。『楽器を演奏してみたいか?』と質問するとかなりの人が『はい』と答えます。でも、実際に楽器演奏にチャレンジする人となるとそのうちの10%となり、長く続けられる方はさらにその中の10%まで絞られてしまうのが現実。弾きたくなる楽器、弾き続けられる楽器を作ることが我々のミッションです」

 楽器を練習する人にとって一番のネックは騒音問題。エレキギター経験者ならわかるだろうが、小さい音でコソコソ弾いてもまるで上達しないし、ストレスばかりが膨らんでしまうのだ。

 そんな不満に対するアンサーとして開発したヘッドホン型ギターアンプの「WAZA―AIR」(19年発売、実勢価格4万6000円前後)が、巣ごもりニーズと合致して大ヒットを記録した。

「家に置けるサイズのギターアンプは限られるし、置いたとしても結局好きなだけ音量を上げて弾くことは難しい。床に這ったシールド(※ギターとアンプをつなぐケーブル)が『蛇みたいで気持ち悪い』なんてことを言う女性もいる(苦笑)。そうした制約を全部なくしてヘッドホンの中にすべてを詰め込めないか、と開発に力を注ぎました」

 75年の発売以来、現在まで生産、販売を続けるギターアンプ「JC―120(通称=ジャズコ)」という名機があるにもかかわらず、画期的な新製品を投入したことに渡辺氏も驚きを隠せない。

「何もしなくても売れ続ける超ロングセラーがある。他社も含めてワイヤレスのギターアンプ市場が大きくなっていたので、そこに製品を投入するところはわかります。しかし、さらに先手を打った製品をコロナ禍に入る前に発売していたとはびっくりです」(渡辺氏)

 革新的な製品はそれだけにとどまらない。主力である電子ピアノや電子ドラムはもちろん、ローランドは21年に電子和太鼓まで発売している。

「トランポリンを見てひらめいた社員が開発した多層メッシュ構造の打面が電子ドラムに今までにない自然な打感を実現しました。その技術が、21年に開催された世界的なスポーツイベントの開会式でも演奏していただいた世界初の担ぎ桶スタイルの電子和太鼓『TAIKO―1』にも展開されています」(寺内氏)

 同社では過去にも、開発部門以外の社員も投稿できる新製品アイデア掲示板に書き込まれたアイデアが、新たな電子楽器「Aerophone」開発の端緒となっており、ひとつのアイデアが次々と花開いていくことも強みと言えるだろう。

「正直にお話ししますと自信を持って世に送り出した新製品が空振りすることもいっぱいありました(苦笑)。それでも弊社の50年間でヒットした商品を振り返ると、『この音使えるんじゃない!?』って我々の想像を超えた使い方をする天才的なアーティストが現れるのが面白いところです」

 たとえば16年に世界的なヒットを記録したピコ太郎の「PPAP」もそのひとつ。何げなく聴いているだけではわからないが、音楽好きが聴けば同曲の中の「ポーン」と鳴り続けているカウベルの音は、80年発売のリズムマシン「TR―808(通称=ヤオヤ)」に収録されたものだという。世界中のテクノファンが「さすがピコ太郎!」とうなった。

 また、18年発売のボイスチェンジャー「VT―4」は男性がVtuberの美少女キャラを演じるため、女性の声を作り出す用途で注目を集めた。

 創業時から海外でのビジネス展開を進めており、現在では売り上げの約90%を海外が占めており、海外進出も順調だ。新規顧客を開拓するために今年8月には英国・ロンドンに同社初となる直営店をグランドオープンさせる。

「これまで楽器は楽器店で買うものだったが、ECの浸透で消費者の購入経路も多様化している。とはいえ楽器はファッション以上に直接触れてみたり、音を体で感じた上で購入したいニーズも強い。新しい技術を駆使しながらユーザーエクスペリエンスを向上させる試みも非常に面白いと思います」(渡辺氏)

 スマートフォンが我々の生活を一新させたように、新たな楽器が暮らしをアップデートさせる日も近そうだ。

 ☆わたなべ・ひろあき 1967年生まれ。静岡県浜松市出身。「やらまいかマーケティング」代表取締役社長。大学卒業後、ローソンに22年間勤務。店長を経て、コンビニバイヤーとしてさまざまな商品カテゴリーを担当し、約760品の商品開発にも携わる。フジテレビ「LiveNewsα」レギュラーコメンテーター。

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