【取材の裏側 現場ノート】ここ最近、ボクシング現場で「さすがキムタク!」との声をよく聞く。9日に最終回が放送されたテレビ朝日系ドラマ「未来への10カウント」で高校ボクシングコーチ役を演じた木村拓哉(49)のことだ。

 このドラマはアマチュアボクシング界が舞台。主人公を演じたキムタクは、役作りために都内のジムで経験者の指導を受けて練習に励んだという。現役プロボクサーからは「専門的に見ると動きにやや違和感ある」との声もあったが、撮影現場に居合わせ関係者は「ちょっと練習しただけでボクサーの動きをマスター。すごいセンスだった」と絶賛した。これまで美容師、パイロット、検事、ボディーガードなど数々の役柄になり切ったキムタク。作中で見せた左ボディーは「カッコいい」とプロも舌を巻いた。

 撮影にあたってはアマチュア競技統括団体「日本ボクシング連盟」が協力。台本を精査し、細かいルールや会場のアナウンスなども忠実に再現したという。連盟関係者は「できる限り正確に伝えたく、テクニカルな部分でも修正させてもらいました。経験者が見た時に『これは変だ』と思われないように」と振り返る。

 特に気を付けた点が「リング上」の演出だ。当初、台本には右ボディーを効かせるシーンがあったが「基本的にボディーは左が効くので直させてもらいました」(日本連盟)。また、アマ競技はヘッドギアを着用し、グローブも大きく、プロより格段にダウンが少ない。そんな事情もあって、倒れ込むシーンを巡って議論を重ねたという。

「ボクシングはダウンした後に立ち上がるところがドラマチック。ただ、過度に演出すると現実味に欠ける。台本にアッパーやストレートで倒される描写がありましたが『上のパンチでダウンするより、左ボディーを効かせた方がいいのでは?』という提案もしました」(同連盟)

 ドラマ的な演出を生かしつつ、リアルさも追求――。製作サイドと日本連盟は議論の末に〝最大公約数〟を導き出したようだ。しかし、あえて非現実の設定を生かした箇所もある。

「実際は女子のインターハイは存在しません。ただ、今はアマチュアで女子選手が活躍し、話題にもなっています。そこで高体連と話し合い、今後は女子もインターハイ競技を…という希望も込め、そのままにしました」

 まさしく昨夏の東京五輪で日本女子初の金メダルを獲得した入江聖奈(日体大)の効果であろう。

 余談になるが、世界バンタム級3団体統一王者の井上尚弥(大橋)が7日に歴史的勝利を飾った後、キムタクはSNSで「努力が産み出すカッコ良さ」と発信。ドラマ内で見せた左ボディーは、日本ボクシング界に希望を与えるモンスターへのオマージュではないか。記者はそう信じて疑わない。

(ボクシング担当・江川佳孝)