監督、映画プロデューサー、ベテラン俳優による女優への性加害の実態が明らかになり、揺れる映画界。その忌まわしい性暴力被害を実名告発した女優・文筆家の睡蓮みどり(34)が苦しくも奮い立った心境を本紙に明かした。自身の経験を振り返り、一部ではびこる芸能界の悪習を「次世代に残したくない」。その決意は世界へ発信されている。

 今年3月、週刊誌上で榊英雄監督の卑劣な手口を明かした女優らの告発を目にし、睡蓮は自身も受けた被害が性暴力だったという認識を初めて持ち、実名での告発に踏み切った。

「他の人の身に起きたことを知り、許しがたい行為だと感じました。やっと自分の身に起きたことを客観視できたことで認識できた。沈黙を続け、なかったことにはできないと思いました」

 榊氏の被害者の女優が自らの名前を明かして告発するのは2人目。最初の女優の告発に対し、同氏が「相手の女性から近づいてきて関係を持った」と釈明し、性加害を否定したことへの憤りもあった。

 3月末、睡蓮はふだん映画批評を執筆している「図書新聞」の連載で、自ら被害の詳細を明かした。そこには、共演女優が同じように同氏からの性被害に遭ったことを打ち明けられた際、睡蓮は自身の被害を話せなかったことを「ものすごく後悔している」と書き「加害者に対しては許せる日は永遠にこないだろう」と心境をつづった。

 忌まわしい事件が起きたのは2015年秋。映画出演が決まり、監督の赤坂の事務所に呼び出された。スタッフや役者もいると思って入ると、監督と1対1。「台本に名前はないが、これから役をつくる」と言われ“演技指導”の名目で「服を脱いでオレを誘惑する演技をしてみて」と言われた。

 役柄ならと思っていたが、後の実際の撮影では男性と絡むようなシーンはなかった。どこまでが演技指導なのかわからないまま押し倒され、驚きと恐怖で放心状態になった。

「当時は役者として指示されたことに対して応えたいという一心で、やらないといけないと必死に演じていました。性行為の確認もなければ合意なども当然していません」

 告発を機に、早大在学中に飛び込んで以降の、芸能界の悪習からの“洗脳”も解けたという。グラビアアイドルを経て女優となり、16年に映画「断食芸人」(足立正生監督)でバストトップを披露したが、それまでは脱ぐことにも抵抗があった。一方で、セクハラは日常茶飯事だった。

「複数の監督やプロデューサー、芸能事務所社長などから、関係を迫られたり、仕事の話だと思って行くと飲食の場で、接待要員としてお酌をさせられたり、体を触られたり。拒絶すると『業界に合っていない』などと怒られ、徐々に自分は適応能力、才能がないと思うようになり、自尊心がなくなっていった。そういうのが当然という洗脳状態になっていた」

 そのため、5年前に米ハリウッドのプロデューサーへの告発で「MeToo運動」が広がっても「私1人が声を上げても日本ではどうにもならない」とあきらめていた。

「今思えば、あの時、みんなで立ち上がって日本でも運動が広がっていれば、この5年間の被害者は減らせていたかもしれないと後悔しています」

 だが、今回は揺るがない決心があり、仲間もいる。特に昨年結婚したオランダ人の日本映画研究家で、大学講師の夫トム・メス氏(48)の存在が大きい。告発記事の直前、初めて性暴力被害と告発の意思を打ち明けると「話してくれてありがとう。告発は勇気がいること。その行動を誇りに思う」と理解してくれた。

 睡蓮も含めた被害者とその支援者を中心に「映像業界における性加害・性暴力をなくす会」が発足し、声明を発表した。その呼びかけに俳優や映画監督、業界関係者が賛同している。メス氏は同会の活動を世界に発信する役目も担っている。

 告発以来、心ないネットのコメントや2次加害なども目にする。「女優として覚悟がない」「枕営業」「売名行為」など、加害者に都合の良い言葉で、日本社会の変わらない価値観が一部で横たわっている。

 睡蓮は「その古い価値観こそ変えていきたい。これからは後輩の役者が同じ目に遭った時『芸能界ではよくあること』とは言いたくない。私たちの世代でそういう洗脳をやめたい」とキッパリ。

 一方で自身は次を見据えている。フランス人監督ジャン=ルイ・ユザン氏の作品への出演のほか、メス氏と共同でドキュメンタリー映画の撮影・監督として動き出している。
 日本の芸能界が本気で変われるのかが問われている。

 ☆すいれん・みどり 1987年10月26日生まれ。神奈川県横浜市出身。早稲田大学第二文学部在学中の20歳でグラビアアイドルデビュー。その後、女優業を本格化させ、映画「断食芸人」「新宿タイガー」「東京の恋人」などに出演。舞台では月蝕歌劇団公演などに出演。写真集では「BAD MOOD」(2019年)、「赤と黒」(21年)などを発売。女優活動と並行し「図書新聞」映画時評、「キネマ旬報」映画評論、星取りレビューなど、文筆家としても活動。著書に「溺れた女 渇愛的偏愛映画論」などがある。21年3月、オランダ人日本映画研究家・大学講師のトム・メス氏と結婚。